大人になったからこそ手に入れることができる、ちょっといいモノ。それは実際に使いこなさないと、単なる散財になってしまうが、長く愛することができれば、「本当の上質」になる。ここでは各ジャンルで活躍し、独自の視点でモノに向き合う人々から、料理家・濱守球維さんの散財品をご紹介。今の時代に、モノを買う意味や喜びをあらためて探ってみたい。

自分の中の何かのスイッチを押す買い物は、無駄遣いではないと思いたい

 わたくし、今年の春から人生初のフリーランスに身を投じたばかりの料理家でございます。若い頃はプロモーターやマネージャーなどの裏方として音楽業界に長年従事。その後、ひょんな縁とタイミングで、渋谷の裏路地にひっそり佇む小さな居酒屋の雇われ女将となったのが30代後半。小さい頃から料理は好きで作り続けていたものの、商売として通用するのか不安だらけの頃から早8年、料理家として独立して食べていけているのだから人生って面白い。

 さてこのお皿。お皿に見えないかもしれないが、私にとっては十二分にお皿である。長野県在住の木工家、小山剛さんの作。料理家として独立を考え始め、ケータリングなどの個人仕事を受け始めた2年ほど前に友人がリコメンドしていたのをきっかけに訪ねた個展で一目惚れ。私はどうも、エッジが立っているのに温もりも感じるような、相反した要素を併せ持つものに色気を感じて所有欲がフツフツと湧いてしまうきらいがある。しかし高い。金4万円也(現在は4万3000円だそうだ)。お皿1枚に。私にとっては十分に清水の舞台から的な値段。

 しかし今考えると、自分の中の何かのスイッチを押す買い物だったように思える。気合を入れて働くきっかけ。そんな買い物は決して無駄遣いではないと思いたい。実際に使ってみても、サラダに刺身に和え物に、仕事先のお宅や自宅で、と陰日向なく食卓に上っているが、光の加減でときたまグレイッシュに光る黒漆仕上げの色と質感が、なんともいえない素敵な感じに料理をボトムアップしてくれる。小山さんご本人も職人気質な凜とした側面と、若々しくチャーミングな側面を併せ持つ魅力的な方だ。最近では中国でも人気らしく忙しくされているようで、ジャンルは違えども刺激を受ける。

 私の下手な写真でこのよさがどこまで伝わるかわからないが、機会があったらぜひ手にとってみてほしい。あなたも何をのせようか、それがどう見えるか、ワクワク考えている自分に気づくかも。ちなみに今回、お皿にのせた料理は「だるま烏賊の香草和え」。ここ最近の猛暑にやられてさっぱり簡単メニュー。旬のだるま烏賊はサッと湯通ししたあと氷水で締めて甘みを出す。そこへ塩昆布の塩味、スダチの酸味、ディルの香味を纏わせてオリーブオイルでまとめた、真夏の疲れた胃腸に優しく効きそうな一品でした。

濱守球維
料理家。北海道函館市出身。文化服装学院卒業後、レコード会社で販売、バイヤーを経験し、アーティストのマネージャーを務める。その後、渋谷のんべい横丁にある3畳ほどの居酒屋「黍(きび)」の雇われ店主に転身し、2017年春まで7年間、料理の腕を振るう。2016年からはケータリング「たまごはん」を主宰。出した料理に対するゲストの反応はすべて筒抜け、家族の食卓のような小さな店だからこそ培われたその人の舌に合わせた優しい料理は、舌の肥えた数々のクリエイターや著名人から支持されている。

Photo&Text:Tamai Hamamori Edit:Yuka Okada

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