大人になったからこそ手に入れることができる、ちょっといいモノ。それは実際に使いこなさないと、単なる散財になってしまうが、長く愛することができれば、「本当の上質」になる。各ジャンルで活躍し、独自の視点でモノに向き合う人々から、今回は「マディソンブルー」のデザイナー・中山まりこさんの散財品をご紹介。今の時代に、モノを買う意味や喜びをあらためて探ってみたい。

買い物は作り手とのエネルギーの交換だから、愛情のこもったものしか欲しくない

 ファッションスタイリストとして、N.Y.や日本で長年活動をしてきました。でもスタイリストの仕事は雑誌を通して提案はできても、リアルに一人ひとりと触れ合うことはできない。もっと直接お客様とつながるかたちで仕事をしたいと思い、自分のブランドを立ち上げました。今でもデザイナーというよりは、服という道具を使ってスタイルを提案している感覚です。

 そんな私の最近の散財といえば、このセリーヌのオーダーのラゲージ。8年前にフィービー・ファイロがクリエイティブ・ディレクターに就任して以来、セリーヌが大好きなんです。ファーストコレクションを見たときから、ああ、この人は本当に服が好きで、その時代その時代のブランドやスタイルを経験してきたんだな、っていうことがよく伝わってきた。私にとって服を着るということはそのデザイナーの心意気を着るようなものなんだけど、フィービーが何を見て、何を着てきたかが伝わってくる。着るたびにそれを感じられることが嬉しいの。私がデザイナーになったのは、彼女がきっかけと言ってもいいほど。

 さらに、私の接客をしてくれるセリーヌのスタッフに魅了されたんです。商品やファッションについてものすごく勉強をしている人。フィービーのことを尊敬しているし、顧客である私のスタイルも熟知していて、いつもツボを突く提案をしてくれるんです。そんな彼にある日、「まりこさん、そろそろメイド・トゥ・オーダーじゃないですか?」と天啓のように言われたのが、このバッグ。

 実はそれまで、エルメスのバーキンに対して圧倒的な存在感を感じ、尊敬もしていたのですが、だからこそいわゆる「バーキンを持っている人」になりたくないという気持ちが強く、モヤモヤしていたんです。そんな時、このセリーヌのバッグを提案されて、大げさでなく、道が見えた。服やバッグって多かれ少なかれ、身につける人に「あなたはこの先、どう生きていくの?」と問いかけてくるようなところがあるけれど、このバッグはその最たるものだった。7〜8㎝の小さな生地見本を見ながら全体をイメージする、一騎打ちのような真剣勝負。他の誰も持っていない、私だけのバッグ。金額は約300万円。もちろん安い買い物じゃないけれど、それ以上に、私を次のステージに引き上げてくれたような感覚でした。

 オーダーから完成までの半年の間にそんなバッグとの距離はどんどん縮まって、届いた頃にはもうすっかり私のバッグになっていました。オンでもオフでも可愛がっているし、Tシャツにジーンズでも適当に持っちゃう。そしてこのバッグが馴染んでいる今が、とても気に入っている。ファッションって、エネルギーの交換だと思うんです。身につけるたび、手に取るたびにモノが教えてくれることがある。モノの持つエネルギーのすごさを、このバッグは教えてくれます。

中山まりこ
「MADISONBLUE」ディレクター、デザイナー。1980年代よりスタイリストとして活動。1980年代後半、N.Y.にて『Interview Magazine』などのスタイリストやコーディネーターを務めたほか、NOKKO全米デビューのディレクターとしても活動。1993年KiKi inc.に所属し、広告・雑誌・音楽のスタイリングをメインに活動。2013年、自身のブランド「MADISONBLUE」を立ち上げる。
マディソンブルー
セリーヌ

Photo:Meguro Tomoko Text : Yurico Yoshino

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