『めぐり逢わせのお弁当』の気鋭監督が映画化

『終わりの感覚』は、ジュリアン・バーンズの11作目の長編であり、4度目の候補にして初めてブッカー賞を受賞した作品だ。若さゆえの無知や愚かさも多分に含んでいるから、テーマの重さに反して文体は軽妙だし、読後感には青春譚のような青い爽やかさや苦さもある。しかしながら、このミステリーの奥行きの深さは、ボディブローのように十分に重みをもって心に響いてくる。本書の解説によると、数十年間連れ添った妻が脳腫瘍で急逝した後、約2年半の「隠棲」ののちに発表した作品だという。

 記憶はもとより、死、愛、悔恨といたテーマ、なによりも自身に向けられているような語り口は、著者の人生の節目を考えるとより一層感慨深い。

 映画化は、インド映画『めぐり逢わせのお弁当』のヒットで知られるリテーシュ・バトラ監督が手がけている。バトラはインド生まれ、インド育ちだが、18歳で米国に渡り、NY大学の映画科で学んだ。本作が長編2作目で、英語映画は初めてだが、既にハリウッドでも今最も注目すべき監督として名前が挙がっている期待の新進監督である。映画は冒頭から小説とは異なり、初老のトニーが弁護士から遺産贈与の知らせを受けるところから始まるなど、一気にミステリータッチで展開される。トニー役に『アイリス』でアカデミー賞助演男優賞を獲得したジム・ブロードベント、現在のベロニカ役にフランスや米国でも活躍するシャーロット・ランプリングなど、英国の演技派俳優を起用しているが、一筋縄ではいかないトニーとベロニカの決して友好的とはいえない再会が“見せ場”になるのも彼らの素晴らしいパフォーマンスのおかげだろう。すべてを知ったトニーが、今まで考えもしなかったベロニカの人生を思いやるときの心の痛み。この心臓が締めつけられるような感覚を味わったとき、観客は、この物語のあちらこちらに仕掛けられていたバーンズの罠に、彼の思惑どおりにかかっていたことを知るだろう。

The Sense of an Ending『ベロニカとの記憶』
監督/リテーシュ・バトラ
出演/ジム・ブロードベント、シャーロット・ランプリング、ミシェル・ドッカリー、ハリエット・ウォルター、エミリー・モーティマー
シネスイッチ銀座、新宿武蔵野館ほか全国順次公開中
配給/ロングライド
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立田敦子
映画評論家。カンヌやヴェネツィアなどの国際映画祭に参加し、映画界のトレンドをレポートする傍ら、多数の雑誌に映画評、インタビューなどを執筆。公式ブログ『スクリーンの向こう側』(http://blogs.elle.co.jp/culture/atsukotatsuta)も好評。著書に『どっちのスター・ウォーズ』(中央公論新社)など。

Text:Atsuko Tatsuta Edit:Kaori Shimura