くすりの役割は病気を治すこと、ではない。

 他のくすり、例えば頭痛薬や花粉症の薬なども同様。くすりの役割は、不快な症状を和らげ、体をラクにすること。むろんそれは、ありがたいはたらきだし、とても大切。でも、決して、病気を根本的に治しているわけではないのだ。

 當瀬教授がこの点を力説し、“落とし穴”とまで言うのには、わけがある。「くすりで病気が治ると思っていると、『今回は症状が強いから、普段より多めにくすりをのもう』といった、絶対にやってはいけない自己判断に陥る可能性があるのです」。

 現在使われているくすりの中には、猛毒に由来する成分もある。くすりと毒は表裏一体。だから、くすりがくすりとして役立つのは、体内での濃度がある範囲に収まっているとき(下グラフ参照)。それを下回れば効き目が得られないし、上回ると有害な作用のリスクが高まる。ちょうどいい濃度を保つためには、くすりの代謝(排泄)速度など生理学的な側面も踏まえた上で、「適切な間隔で適切な量」をとる必要がある。そんな前提から、「用法用量」が決められているのだ。そこから外れて使っても、メリットは何一つない。

 例えば、便秘薬などをのんで「効かない」と感じたとき、量をどんどん増やしていないだろうか?

「便秘は不快かもしれませんが、それで死ぬことはない。でも便秘薬を過剰にのめば、最悪、命に関わる事態もありえる。くすりとはそれほどパワフルなものです。用法用量通りにのんで効かないのなら、そのくすりは必要ではない、ということ。すべきことは、量を増やすことではなく、医師か薬剤師への相談です」(當瀬教授)

くすりの濃度の変化

『図解入門 よくわかる 薬理学の基本としくみ』(當瀬規嗣 著・秀和システム)より

体の仕組みに照らしてみれば。「用法用量」は絶対に大切。
くすりが効くためには、通常、血液中の濃度を有効なレベルに保つ必要がある。でも体の中に入った途端、肝臓や腎臓で処理されてどんどん排出されるので、血液中の濃度は時間とともに下がる。ちょうどいい濃度をキープするには、定期的な服用が必要。そのために「1回1錠、1日3回服用」などと用法用量が決まっているのだ。のみ忘れると濃度が下がって作用がなくなり、のみすぎると濃度が上がりすぎて「中毒」状態に。現在、市場にあるくすりは、安全性が確認されているが、それは「用法用量を守る」ことが大前提だ。