「くすり」と「食べもの」を混同しないこと。

 もうひとつ、多くの人が勘違いしていることがある。体にとって、「くすりは異物」。招かれざる客なのだ。これは、食べものと比較するとよくわかる。人間を含む、すべての生き物にとって、食べものとは、「体の一部になるもの」。タンパク質、糖質、脂質、ミネラル、ビタミン……これら体の構成要素になる成分は、一般に「栄養」と呼ばれる。胃腸や肝臓は、栄養を取り込むべくはたらいている。ところが、くすりに対しては、肝臓や腎臓などは、むしろ排除するように動く。扱いが真逆なのだ。

「医食同源という言葉があるためでしょうか、日本人は“この食品には、こんな効果がある”と聞くと、劇的な結果を期待する傾向がある。また一方で、くすりをとることへの心理的なハードルは低いようです」と當瀬教授。しかし、この言葉の真意は、「バランスの取れた食事をとって病気を防ごう」であって、食べものはくすりではないし、多種多様にとって意味があるもの。対するくすりは、用法用量を守ることが大切。そして、錠剤などの形状から、その気になればいくらでもとれる、つまり過剰摂取のリスクがあるものだ。

 そもそも、くすりも医療も、人間しか持たぬ知恵。「イヌもネコも、人間以外の動物は、具合が悪くなれば動かなくなります。歩ける程度に回復するまで、じっとしているんです」(當瀬教授)。

 社会的な生き物である私たちは、「休んでいられない」から、くすりや医療を発達させてきた、ともいえるかもしれない。例えば、頭が痛くて仕事にならないときの頭痛薬。あのズキズキが消え失せて、仕事がサクサク進むようなときは、くすりのありがたさを実感する瞬間だ。しかし、ここまで見てきた通り、体にとってくすりは異物であり、根本的に病気を治すことはなく、あなたの持ち前の治癒力をサポートする存在──いま一度、くすりとの付き合い方の参考に。

當瀬規嗣教授
札幌医科大学医学部 細胞生理学講座
當瀬規嗣教授 1984年北海道大学医学部卒。札幌医科大学医学部助教授、米シンシナティ大助教授などを経て、98年より現職。2006〜10年、同医学部長。専門は生理学・薬理学。「規制緩和などもあり、くすりはより身近な存在に。くすりが効く仕組み=薬理学と、受け入れる側の体の仕組み=生理学を知っておけば、情報に踊らされず、よりよい選択ができるでしょう」

Photos: Tsuyoshi Ogawa Text: Masahi Kitamura Editor: Yuko Sano

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