〈前編〉に続き、いま、私たちの生活の中に当たり前にある「くすり」について、あらためて考える特集。後編は、くすりの量と効果について。

“くすりが多すぎると治療の質が下がる。有害であり、もったいないです”

 歳をとると、誰でも病気になりやすい。くすりをのむ機会が増えるのも、自然なことではある。とはいえ、下のグラフを見ると、さすがに考えさせられる。これは、日本人が投与されたくすりの点数を、年齢層ごとに比べたもの。60代から増え始めた投薬点数は、右肩上がりに増え、「85歳以上」で最大になるという。

 現在、日本人の平均寿命は、女性で87.14歳、男性は80.98歳。おおむね人生の最終局面である85歳以上の人たちに、最も多くのくすりが投与されているという現実に、「お年寄りは病気になりやすいからね」だけでは収まらぬ違和感を覚えるはずだ。

 多種類のくすりを併用すると、副作用などの望ましくない事態が起きやすい。これは「多剤併用(ポリファーマシー)」と呼ばれ、近年、特に高齢者医療の場で問題視されている。皆さんにとっては、まずは親の世代が直面する問題かもしれないが、当然ながら、“明日の我が身”である。

 この問題に詳しい東京大学の秋下雅弘教授(加齢医学)は、「大まかな傾向として、薬の点数が6種を超えたあたりから副作用などの出現率が高まる」と話す。

 ここには、いろいろな問題が複雑に絡んでいる。まずは、くすりの相互作用だ。「2剤の相互作用による副作用は、ある程度調べられています。でも、3種類以上を同時にのんだとき、体の中で何が起きるかは、ほとんどわかっていません」(秋下教授)。

 そして、重複処方という問題。高齢者は複数の病院にかかることが多く、それぞれのドクターから、胃薬や痛み止めなど、似たような作用のくすりがダブって処方されることがある。または、例えば、胆石症などに使われる抗コリン薬(副交感神経のはたらきを抑制)と、認知症で使われるコリンエステラーゼ阻害薬(副交感神経を活性化)のように、逆向きに作用するくすりが処方されることも。こんなふうに、くすりの作用が幾重にも重なると、効きすぎて副反応が出てしまったり、期待通りの効果が出なかったりすることもある。

「料理の味付けで、甘み、辛み、塩味などさまざまな調味料を全部どかっと放り込んだら、わけのわからない味になりますよね。それと同じような状態」(秋下教授)

 また、くすりの点数が多ければ、のみ忘れなどの間違いも起きやすくなり、結果として治療がうまくいかなくなる例もあるという。