山田うん作品『いきのね』より Photo:Naoshi Hatori
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 この4月、都内の稽古場でのリハーサルを見学し、まだ制作途中の段階ではあるが、通しでパフォーマンスを見ることができた。

 古式ゆかしき袴を現代的にアレンジした衣装をまとうダンサーたちが静々と現れ、雅楽の笙に似た音色を持つ西アジア発祥の楽器「フルス」を合奏するシーンから舞台は始まる。

「初回の稽古合宿では一日8時間のスパルタで、まずは楽器演奏を特訓したんです。それぞれの楽器の階調が異なるので、呼吸だけでアンサンブルを合わせるのはかなりの技術を必要とします」(山田うん)

 澄んだ音色に満たされた恍惚的な音響空間がまずつくられ、そこから徐々にダンスの動きがビビッドになっていく。 カンパニーダンサーたちは儀式の巫女の役割を担い、一方で、湯浅は彼女たちとは異質な存在の「鬼」を演じる。これは自らのパワーを誇示し、女たちの静謐な調和を乱す、いわば過剰な男性性の象徴として位置づけられる。

「新宮で育った幼い頃、連れていかれた祭事で儀式を司る人に大人の女性がいないのはなぜだろう、と気になっていました。歴史と無縁なものとして作品をつくることはできません。儀式をテーマにすることで、いま世界中で同時に起こっている新しいフェミニズムの問題も踏まえ、人間本来の共存の意味をつかむための枠組みをつくりたかった」(向井山)

 山田は2016年発表の近作『いきのね』でも、愛知県に伝わる祭事をモチーフに、土着的な儀式とそこに宿る身体性に肉薄している。そこではきわめて緻密に秩序立てられたフォーメーションと、ダンサーたちのストイックに抑制された動勢が印象的だった。

「今回『雅歌(GAKA)』では、もっと穢れや混沌を取り込んでいくことになります。巫女と鬼との境界は曖昧なのか、潔癖なのか。さらに現代の女性問題についても決して耳をふさぐことはできません。私自身はクリエイションするうえで、常に人種や性別、国籍などの“ボーダー”にいる立ち位置を大事にしています」(山田)