京都国立近代美術館で4月29日から開催されている「技を極める―ヴァン クリーフ&アーペル・ハイジュエリーと日本の工芸」展が連日大盛況だ。フランスを代表するハイジュエリーメゾンと日本工芸の技の競演もさりながら、それを生かす展示にも注目が集まっている。今回の会場デザインを担った建築家・藤本壮介氏に見どころを聞いた。

ジュエリーのきらめきが無限に続き、禅の庭にいるかのような空間のなかで新たな発見を

 日本だけでなく世界規模で活躍する建築家・藤本壮介氏。今回、270点にも及ぶヴァン クリーフ&アーペルのハイジュエリーと、約70点の日本の工芸作品を展示する会場デザインを担当。“ヴァン クリーフ&アーペルの歴史”、“技を極める”、“文化の融合と未来”という3つのテーマ(セクション)で構成されることは元々決まっていた。「それをどう美術館の展示室に落とし込んでいくか、起承転結のある、シンプルながら互いにつながりをもった空間にしたいと考えていました」と藤本氏。
 実際に、第1セクションでは、ヴァン クリーフ&アーペルが創業した1900年代初頭から現代までの作品を並べ、デザインの変遷や連綿と受け継がれる高度な技術の歴史をひとつの直線的な流れとして表現するため、檜の板をつないだ長さ18メートルの一本の展示台を使って見せている。

ヴァン クリーフ&アーペルの歴史を18mの檜の一枚板の上で表現した第1セクション

 ヴァン クリーフ&アーペルと日本工芸の超絶技巧が共に並べられた第2セクションでは、ガラスの展示ケースがレイヤーとして重なりあい、ジュエリーのきらめきが映りこみ無限に続いていくような空間になっている。
 「ガラスやアクリルは日本的な素材ではないですが、そぎ落とされたシンプルで透明感のある素材が、日本の襖のように平面として重なり合って日本的な遠近感を感じられるよう表現しています。重なりの向こう側にさらに作品が見えて、期待感を持ちながら鑑賞してもらえる。異質な文化背景をもつジュエリーと日本の工芸作品が共演する空間を作り出すことができたと思います」と、藤本氏自身もお気に入りの空間に仕上がった。

ハイジュエリーと日本の工芸の「技」を比較しながら楽しめる第2セクション

 そして、人間国宝である森口邦彦氏(重要無形文化財「友禅」保持者)をはじめとする現代の工芸作家による作品とハイジュエリーを組み合わせた最終章の第3セクションへと移っていく。
 「このセクションで展示される現代日本の工芸作品は、素材感や大きさの異なる作品だったので、順路を限定せずに自由に見て回れるよう、アクリルの展示ケースが“禅の庭”のように静かに林立する空間にしています。自由に歩きながらジュエリーと日本の工芸作品を発見していってもらえれば」

「文化の融合と未来」と題した第3セクション

 今回、藤本氏がことさらにこだわったのは、展示ケースのシンプルな素材感、空間構成の中で、クオリティーの高いジュエリーや工芸品の質感と存在感を際立たせることだったという。
 例えば、ジュエリーと日本の工芸では適当とされる照度が違ってくるが、あまり強い照明をあてられない日本の工芸に合わせ、照度を抑えつつも作品が光り輝くような照明になるよう設計している。
 「特にジュエリーは作品自体が小さいので、大きな空間の中でどう存在感をもって見せるかを考えました。ジュエリーの展示では全体に暗い空間になりがちですが、セクションごとに変化があるよう、例えば、第2セクションと第3セクションの間に、言わば何もない真っ白なスペースをつくり、ジュエリーの工房で使われていた古い家具や道具を置いたり、壁にジュエリーの写真を大きく拡大出力したものを見せたりしています」と、セクション間の空間にもこだわった。
 「透明な層の重なりで日本的な遠近感のある空間と、見る場所によってジュエリーや工芸品の見え方も変化していく、そのあたりを実際に会場でご覧いただければと思います」
 制作された国も、年代も超えたものが共鳴する空間を、8月6日までの残りわずか1カ月、時間を見つけて訪れるのは何より貴重な体験となるだろう。

藤本壮介
藤本壮介 建築家。1971年北海道生まれ。東京大学工学部建築学科卒業後、2000年藤本壮介建築設計事務所を設立。2014年フランス・モンペリエ国際設計競技最優秀賞、2015年パリ・サクレー・エコール・ポリテクニーク・ラーニングセンター国際設計競技最優秀賞につぎ、本年Réinventer Paris国際設計競技ポルトマイヨ・パーシング地区最優秀賞を受賞。主な作品に、ロンドンのサーペンタイン・ギャラリー・パビリオン2013(2013年)、House NA(2011年)、武蔵野美術大学図書館(2010年)、House N(2008年)等がある。ⓒDavid Vintiner