たとえば知らない世界を覗きたいとき、恋に破れたとき、旅に出たいとき…それぞれ手に取りたい本がある。そんな観点で、生粋の読書家でもある作家たちがNikkeiLUXEの読者のさまざまな気分と、そこに寄り添う本を提案。今回は「ワインを飲みながら、人生について考えたいときに読みたい本」について、井上荒野さんにお話を聞いた。

『チーズと豆と塩と』(集英社文庫)というアンソロジーに参加した際に、取材先のイタリアからお土産として持ち帰って以来、ワインを飲むのが好きになったそう。「それまでは漫然と飲んでいただけだったけれど、旅の思い出と一緒にその土地を意識しながら味わうようになったせいか、前より美味しく感じるようになりました」(井上)

ワインを飲みながら人生について考えたいときに読みたい3冊

「自分にとって面白い本を選ぶとワインが飲みたくなる」という井上荒野さん。ワインと小説の美味しい関係――そこから、人生との向き合い方も垣間見えてくるのが面白い。

――一冊目に選んでいただいたのはポール・トーディの『ウィルバーフォース氏のヴィンテージワイン』。まさに今回のテーマにぴったりですね。

井上 ワインの銘柄はもちろん、ブドウの名前なんかもたくさん出てくる。薀蓄にもワクワクできる小説だと思います。それと、目に映る世界が変わっていくワクワク感ね。プログラミングのオタクだった男が、ひょんなことからワインにハマって身を持ち崩していく話なんだけど、そこには人が何かに囚われていくときの昂揚がある。人生が自分の意志とは無関係に、ほんのひとつの偶然でまたたく間に転がっていく面白さ、というか。たとえば、この主人公がワインに出会わなかったらどうなっていたか。たぶん、仕事も辞めず閉じ籠ったまま、そこそこの成功を収めていたんだろうけれど、はたしてそちらのほうが幸せだったといえるのかどうか考えさせる迫力があるんです。

――導入の場面も印象的です。主人公がくたびれた身なりで高級レストランに入ってきて、ものすごく高いワインをキャッシュで頼む。そこから章ごとに物語の時間が遡っていく。

井上 つまり、なぜこんなことになってしまったのか、ということがじわじわとわかっていくスタイル。破滅の物語なのに、読後の余韻には不思議な明るさがあります。

ポール・トーディ『ウィルバーフォース氏のヴィンテージワイン』(小竹由美子=訳、白水社)。社交とは無縁だったはずのオタク男が、あるワイン蒐集家と知り合ったことで、めくるめく世界に飲み込まれていく。「作中ではワインへの傾倒とリンクするように恋愛も進行します。何かに囚われる、という点では同じことなんですよね」(井上)

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