アーティストにとってアトリエは常に特別な場所だ。その小宇宙から、大きな社会に切り込む作品が生まれる。ここでは、NikkeiLUXEが注目するアーティストのアトリエを訪問し、その作品が放つメッセージやアートの核心を伝えたい。今回は10年に及ぶベルギー・ゲントでの制作を経て、現代アートの世界で評価を獲得するに至った日本のアーティスト小林正人さんを、広島県福山市にある鞆の浦(とものうら)のアトリエに訪ねた。

瀬戸内海を望む、鞆の浦のアトリエを訪ねて

小林正人。光あふれる鞆の浦のアトリエにて。

 広島県福山市、鞆の浦。この瀬戸内海に面する歴史ある小さな港町に、小林正人のアトリエはある。長年、ベルギーのゲントを活動の拠点にしてきた小林が鞆の浦に住居とアトリエを移したのは2007年、以来10年間、ここで制作を行っている。海岸線に沿った街道から細い路地の坂道を上がった先にあるアトリエからは、瀬戸内の海が一望できる。

 「公務員だった祖父は、定年後に東京に出てきて教会をつくるんだけど、ここは彼がそれまで暮らしていた土地で。2005年に結婚したとき、たまたま彼女が岡山出身ということもあってか、父にこの土地の存在を知らされて見に行ってみた。そうしたら、この景色をひと目で気に入ってしまい、帰国してここを制作の場にすることに決めたんです」。

穏やかな瀬戸内海を眺める、アトリエの上階からの風景。

 アトリエに足を踏み入れると、そこは自然光の降り注ぐ、光あふれる空間が広がっていた。三方の壁には制作中の絵と完成した絵がいくつも掛かっているが、完成しているのかいないのか、にわかには見分けられない。

 2016年末に所属ギャラリーのシュウゴアーツでの個展「Thrice Upon A Time」が終了して半年、すでに次の出品に向けた制作が進んでいた。「絵が完成したらギャラリーが持っていってくれるから、次をやることができる。だから、そのときにしかできないことをやる。アトリエに絵があるかぎり、ずっと手を入れ続けちゃうだろうね(笑)」