世界中で愛され続けている絵本『ピーターラビットのおはなし』は、英国の絵本作家のビアトリクス・ポターによって生まれた。イギリスの湖水地方の美しい自然を愛し、畜産家として、また自然保護活動家としても活躍したビアトリクスの波乱に富んだ人生をたどる後編。

原画から伝わる自然への深い愛情

いたずら坊主のピーターが、マグレガーさんの庭で冒険をする『ピーターラビットのおはなし』の水彩の原画。

 ビアトリクスは、小さい頃から絵の具や鉛筆に興味を持ち、見つけた花や植物、動物、昆虫、鳥などを家に持ち帰り、スケッチをして色をつけて写生帳を作るという、ちょっとマニアックな性格な女の子だった。父は美術に対して興味を持っていたので、ビアトリクスは家で絵を習ったり、近くのサウス・ケンジントン博物館(現ヴィクトリア&アルバート博物館)や自然博物館に連れていってもらい、スケッチをするのが楽しみだった。

 また、父と交流があったイギリスの高名な画家、ジョン・ミレーが家を訪れることがあり、ビアトリクスに観察力があることを見抜き、褒めてくれることがあった。ビアトリクスがミレーの名作《オフィーリア》を美術館で目にしたときの感動は大きく、彼女の創作に少なからず影響を及ぼした。家では古い博物学の本の挿絵の写しをすることも多く、絵の素養はどんどん厚みを増していった。

 彼女は動物が大好きだったので、ペットとしてうさぎを飼い、ベンジャミン・バウンサーとピーター・パイパーと名付けて可愛がり、熱心にスケッチ。のちにピーター・パイパーが絵本のピーターラビットのモデルになったのである。彼女は自然のなかにあるものをそのまま描くのではなく、空想的なデザインや自由な文章をちりばめるのが好きで、それがビアトリクスの独特の世界観をつくっていた。

ビアトリクスの貴重なコレクションが残るアーミット・ミュージアム&ライブラリーには、9つのクワガタムシの習作も保管されている。
ロンドンのブライスハウス(ヴィクトリア&アルバート博物館の所蔵庫)に所蔵されている魚の絵。
ブライスハウス所蔵のローリエの葉を描いたもの。葉脈までもが描かれ、透明感のある出来栄え。

 湖水地方のヒルトップ農場に住むようになってからは、自然との関わりがさらに深くなる。自らツリガネソウやサンザシの花やリンゴの木を育てたり、牛や羊を飼ったり、大好きなエスウェイト湖やその前方に広がるコニストン丘陵を一望したり。イチイの木や松の木、西洋カエデや樫の木、白樺など多くの木々が茂る広大な農場の生活はなにものにも代えがたく、湖や空の色も驚くほど美しい。ビアトリクスはこれからの自然をこよなく愛していた。そして、それはビアトリクスの作品に深く刻み込まれていた。

『パイがふたつあったおはなし』の舞台になったバックル・イート。現在はB&B。
ビアトリクスが飼っていた黒ブタがモデルになった絵本『こぶたのピグリン・ブランドのおはなし』に出てくる三差路。ニア・ソーリー村のはずれにある。

イギリス湖水地方に残る絵本の名シーンを訪ねて

ビアトリクスが愛した湖水地方のウィンダミア周辺は、ロンドンのユーストン駅から列車で約3時間半。オクセンホルム駅で下車し、そこから車で約40分。ウィンダミア湖やエスウェイト湖の周辺に広がる。特にヒルトップ農場は絵本の舞台に数多く採用されたところ。入り口からすぐの暖炉のある部屋は『ひげのサムエルのおはなし』に登場。『こねこのトムのおはなし』にも家や愛用の陶器、ジギタリスなどの花の咲くガーデンが出てくる。ビアトリクスが結婚後に住んだカースル・コテージは『パイがふたつあったおはなし』に、ニア・ソーリー村に唯一あるパブ『タワー・バンク・アームズ』は『あひるのジマイマのおはなし』に登場。絵本の舞台そのまま風景に出合うことができる。

晩年を過ごしたカースルコテージ。ニア・ソーリー村の北側にあるカースル・コテージはビアトリクスが弁護士のウィリアム・ヒーリスと結婚したのちに自宅として住んだところ。現在は「ビアトリクス・ポター・ソサエティ」のセールス担当のマンディー・マーシャルさんがご主人と住み管理している。
当時の暮らしぶりをうかがえる、ヒルトップ農場。
田舎暮らしを夢見ていたビアトリクスが、湖水地方で初めて購入したヒルトップ農場。屋敷にはビアトリクスのお気に入りのマホガニーのテーブルや椅子、柱時計、ベッド、飾り棚、陶器のコレクションなどがそのまま残され、ビアトリクスの当時の生活が偲ばれる。ガーデンはビアトリクスが自ら設計し、ファーマーにならって、一から木や花を植え、育てていったそう。
村の唯一のパブ。タワー・バンク・アームズの入り口前は『あひるのジマイマのおはなし』に登場。パブで地元のビールを飲んだり、奥の席で食事をとることもできる。上は、パブに残る絵本のシーンを再現した古い写真と絵本。

ビアトリクス・ポター™生誕150周年「ピーターラビット™展」

~2017年11月5日(日)名古屋市博物館

http://www.peterrabbit2016-17.com


Photos:Shu Tomioka Text:Mariko Awano

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