ますます混迷する現代社会において、アートが私たちに問いかけるものとは? アートジャーナリストの住吉智恵さんが、開催中の展覧会や舞台芸術、注目のカルチャー情報から、未来への道標を探る新連載「アートと○○」。第2回はカナダ出身のアーティストデュオ、ジャネット・カーディフ&ジョージ・ビュレス・ミラーの大規模な個展と、歴史的な建造物で「装飾」をテーマに7組のアーティストの作品を紹介する展覧会から、「アートと夢」の関連性を探る。

カーディフ&ミラーが誘う緻密なイリュージョン

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《The Marionette Maker(マリオネット・メーカー)》2014 写真撮影/木奥惠三 提供/金沢21世紀美術館 Courtesy of the artists, Gallery Koyanagi, Tokyo and Luhring Augustine, New York

 緻密に構築されたイリュージョンを誘う仮説空間により、観る人の五感をくすぐり、揺さぶりをかける世界的なアーティストデュオ、カーディフ&ミラー。彼らのアジアでは初めての大規模な個展が開催中だ。精巧な造形と高度な音響・映像技術を自在に駆使したそのインスタレーションは、世界に遍在する摩訶不思議な「現象」や、ありそうで実在しない「光景」を立ち上がらせる。

 出展作品のひとつである《The Marionette Maker(マリオネット・メーカー)》(2014年)は、虚構の中に虚構が仕組まれた入れ子構造をもつ、彼らの真骨頂ともいえる作品だ。展示室に置かれた古いキャンピングトレーラーを覗き込むと、そこにはひとりの女性が眠っている。無防備に横たわる女性の身体をぐるりと囲むように、マリオネットたちの舞台が繰り広げられる。そこは彼女の夢の世界なのだ。小さな脚本家が夢をもとに物語を書き上げれば、音楽家は楽曲を奏で、ダンサーや動物たちがそれに合わせて踊りだす。トレーラーの窓から目をこらして中を覗くうちに、女性の身体から幽体離脱した意識になり代わり、意識下の世界を眺めているかのような知覚体験へと招かれる。悪夢や淫夢ほど記憶にこびりついて離れないように、彼らの作品の魅力は、ほんのちょっと俗っぽい好奇心やほのかにホラー風の隠し味にある。