ニューヨークでの経験を糧に、東京のレストランの日本酒シーンに新提案

 訪れるたび、客席を見渡すと、有名蔵元が飲んでいる。麻布十番の「赤星(あかほし)とくまがい」はそんな一軒だ。日本酒をウリにした店は、都内に星の数ほどあるが、地方から上京してきた蔵元が自ら訪れる店は限られる。それは、日本酒を醸す蔵人との信頼関係が築かれている証拠といえる。
 「赤星とくまがい」では、一皿の料理に合わせた一杯の日本酒をコースで提供するというスタイルを提案する。アラカルトも充実しているが、日本酒のペアリングを存分に体験したければこのコースがお薦めだ。2015年のオープン当時は、ワインのペアリングが流行り始めていた時期。ワインに比べると安く見られる傾向があった日本酒を、見合う料理とともに供することで、新たな価値を見出した。
 カウンターに立ち、日本酒をサーブする赤星慶太氏は16年もの間、ニューヨークを拠点に日本酒を広めてきた人物。1998年、地酒のエクスポーターとして渡米し、有名ステーキハウス「Empire Steak House」のセレクションに日本酒を採用させるなど、数々の酒メニューをコンサルティング。「ステーキには、にごり酒が合う」という当時の斬新な提案は、今もメニューに残っている。
 現在のパートナーとなる料理人の熊谷道弘氏と初めて出会ったのは2010年、赤星氏がニューヨークのミッドタウンで「Sake Bar KIRAKUYA」をプロデュースし、自身も店に立ち日本酒をサーブするようになったときのこと。ふたりの年齢はひと回り以上も離れているが、今や言葉に出さなくても通じるような関係だ。その後、熊谷氏はニューヨークでレストランの立ち上げやメニューのコンサルティングなどを手掛け、2016年、日本での開業のためにともに帰国した。

和魂洋才、印象深いソースが織り成す旨みが日本酒に歩み寄り、重なる

 店名にふたりの名前を掲げているように、お互いがこれまで培ったことの集大成という思いでオープンを果たした。冷蔵庫に並ぶ日本酒は、当初は170種類だったが、今では倍の350種類以上に。赤星氏の日本酒への好奇心と、料理とのペアリングの可能性を広げるため、続々と増えていった。「合わせる食材を妥協しないことで、日本酒の魅力を伝えられる」という、赤星氏の狙いは成功。熊谷氏のコース料理に日本酒をペアリングすることで、これまで日本酒に苦手意識を持っていた女性たちが次々と日本酒にハマっていった。
 唯一の定番料理の「桃とモッツァレラのサラダ ミントの風味」は、ふたりが初めてペアリングを試みた思い出深い逸品。料理と日本酒の甘みや酸味が調和することで、口の中でペアリングが完成される。このひと皿から日本酒に目覚め、店に再訪する女性も多いとか。
 「和魂洋才」といえば聞こえはいいものの、和と洋のテイストが入り交じった料理は、どっちつかずで中途半端な創作料理になることも少なくない。だが、熊谷氏の料理は違う。皿の上に盛り付けられた、和と洋の数え切れぬほどの要素は、独自の味わいでしっかりと成立しているのだ。とりわけ、味噌や山椒、煎り酒などの和の食材を使ったソース使いが象徴的。そこに赤星氏が、料理の酸味や甘み、温度などから選びだす日本酒が、より説得力を加え、完璧なペアリングとなる。

赤星とくまがい
東京都港区麻布十番3-3-9 COMS AZABUJYUBAN 7F
TEL:03-6459-4589
営:18:00~L.O.23:30、金・土 18:00~L.O.25:30
休:日・祝

Photos: Kazuhiro Fukumoto(MAETTICO) Text: Yui Togawa Edit: Yuka Okada