独特の環境で生まれたワインとともに、心も体も深呼吸

 どこに泊まるかより、どう休むか。忙しい毎日から意識的に距離を置く休暇先を見つけることが、ときに仕事の課題よりも難しいと感じることはないだろうか。
 富山県氷見市余川地区。北陸新幹線の高岡駅から車で30分程度、のどかな山里から勾配の急な細い道を登り切り、海に開けた丘陵地から富山湾越しに北アルプス立山連峰を望む場所に「SAYS FARM」はある。港町の氷見で江戸時代から続く老舗魚商「釣屋魚問屋」に生まれた次男のSAY=ひと言から、FARM=農園を中心に、ワイナリーとレストラン、さらにゲストハウスを作ろうというプロジェクトがスタートしたのは2007年。かつては当たり前だった地産地消が貴重になってしまった日本で、海と山があり、大地の恵みがあり、すべてをまかなえる氷見での暮らしを経験し、次の世代に受け継ぐ拠点を——。そんな想いに一人、また一人と動かされたのは、地元の鮮魚の仲買人たち。早朝のせりを終えた後に草刈機を持ち、もともと雑草に覆われた耕作放棄地を開墾していったのだ。
 4年の歳月を経て、オープンを迎えたのは2011年。現在は10ヘクタールの段々畑に、シャルドネ、カベルネ・ソーヴィニョン、ソーヴィニョン・ブラン、メルロー、ピノ・ノアール、アルバリーニョといった6種1万株のワイン用ブドウを栽培。地下にカーブを備えるワイナリーでは25,000本の各種ワインが生産され、人気の白ワインは常に品薄となっている。
 ちなみにここで「SAYS FARMに関わることで、ブドウも農作物もすべて土地が育むものだと改めて気付かされた」と話してくれた醸造家の一人も氷見出身。2017年秋に初リリースとなるアルバリーニョ品種の白ワインも、言葉にするなら「テロワールを尊重し、風土を映し出すワイン」。アルバリーニョは谷を背にリアス式海岸が連なるスペイン北西部リアス・バイシャスの品種で知られるが、氷見もまた、海から隆起したことで石灰分やミネラルを含んだ土壌と、丘を登る潮風と海へ吹き下ろす風が湿潤な空気を生み、この独特の環境がブドウに個性を与えている。

レストランでのディナーだけでなくギャザリングメニューを推奨

 ワイナリーの横にはFARM=農園を体現するガーデンもあり、多彩な花々と共に、フェンネルなどのハーブが育つ。敷地内にはオウギョクやピオーネなどの食用ブドウ、イチジクやブルーベリーやピーチ、稀少性の高い洋梨のル・レクチェなどの果樹園も点在。宿泊客以外も利用できるSAYS FARMのレストランでは、こうした果物をはじめ、その朝揃った地元の食材を活かした料理を楽しめるが、ここではゲストハウスの宿泊客だけが予約できる “ギャザリングスタイルのメニュー”にも注目したい。
 SAYS FARMでは1泊より2泊、2泊より3泊と、暮らすような滞在を掲げ、魚屋から肉屋まで氷見の食材が手に入る地元の店を掲載した地図を用意し、自炊を推奨している。“ギャザリングスタイルのディナー”は、こうして持ち込んだ食材に加えて、宿泊者が普段の食卓のように取り分けて楽しむためのもの。メニューにはタンポポやニオイスミレなど農園野菜を使ったサラダや、富山産の小麦を使用した自家製フォカッチャなどが並ぶ。持ち込んだ白身魚をアクアパッツァに調理してもらうこともできるし、野菜から出る汁気だけで2時間蒸し煮にした富山県産の豚肩ロースは、STAUB鍋ごと受け取って、仕上げの火入れは自分たちでできる。
 料理に合わせるのはもちろん、レストランに併設したショップで購入できるSAYS FARMのワイン。夕暮れどき、早々にコルクを開ければ、Wi-Fiもない場所での長い夜が始まる。天気がよければ、まずはゲストハウスの外に置かれたテーブルで氷見の風景を堪能し、暮れなずむ頃、屋内のリビングに移動。氷見の滋味に寄り添う、気取りがないワインを飲み進めながら、そこでしか手に入らないという贅沢を大切な人々と共有する。そんな緩やかなひとときは改めてゆっくりと互いに向き合う、特別で優しい時間になるはずだ。

SAYS FARM
富山県氷見市余川字北山238
TEL: 0766-72-8288
料金:2名1室利用/平日¥32,200から ※1日1組、3室6名まで対応

Photos: Masahiro Ohashi Edit&Text: Yuka Okada