マニュアルではなく経験に基づく接客が、ビジネスの会食に効く

 乃木神社からほど近い赤坂通り沿いに店を構える、会席料理店「乃木坂 しん」。真っ白な暖簾をくぐった先に広がる店内は、カウンターと4部屋の個室で構成される、広々とした全26席。ほかのゲストとほとんど顔を合わることなく食事を堪能できる点も、同店が接待に好まれる理由のひとつだ。

 一周年を迎えたばかりだが、すでに貫禄すら感じる安定した雰囲気に包まれている。それは、料理人の石田伸二氏と支配人兼ソムリエの飛田泰秀氏の経験と、両者の息の合ったもてなしによるものだ。

 飛田氏による、柔軟なセレクションのお酒も魅力だ。料理はもちろん、ゲストの好みを瞬時に捉え、そのときに最もしっくりくる1杯を提供する。フランス料理店での経験が長い飛田氏だが、ワイン、日本酒ともに産地や銘柄にはこだわらず、ワインはイタリアやニューワールド、日本、ギリシャなど実に多彩。

「しっかりとした出汁に合うミネラル感のあるワインや、酢橘などの酸と相性のいい清涼感ある日本酒などが、バランスよく料理と引き立て合いますね」と飛田氏。ペアリングは、ワインと日本酒を織り交ぜて供するが、その割合もゲスト次第だ。さらに「接待などで相手を喜ばせたい場合、お相手のご出身地をお知らせいただければその県の日本酒を用意できますし、お酒の好みをお伝えいただければ、その傾向のものを揃えておけますので、予約時に前もってご相談ください」と、会話も弾みそうな心配りが嬉しい。

徳島の食材と、こだわりを凝縮した出汁によるお椀を軸に据える

 石田氏にとって、生まれ育った地であり、料理人として研鑽を積んだ徳島には特別な思い入れがあるという。鯛や鱧、酢橘を筆頭とした徳島産季節ごとの食材は、「乃木坂 しん」を語るうえで欠かすことはできない。食材の持ち味を主役にして料理を仕立てることが、石田氏の信条だ。「頭で考えなくてはわからないような複雑な料理ではなく、口にしてストレートにおいしいと思える料理であることが大切」と語る。

 なかでも、お椀には強いこだわりをもつ。お椀は一見シンプルな料理だが、旨みの存在感の強さや、料理人の個性が出る一品だ。石田氏は真昆布と枕崎の鰹本枯節を使用し、ゲストが来店してから出汁を引く。そこには、徹底したぶれない思いが詰まっている。季節にもよるが、蓋を開けると柚子や酢橘などの香りが立ち上り、澄んだ出汁を口にすれば全身に染み渡るような感覚に。なかに鎮座する食材も、持ち味を主張しながらも出汁と調和している。ひと口ごとに、ホッと癒やされていく。

 一方で、今まで日本料理では馴染みの少なかった食材も積極的に取り入れるなど、柔軟な遊び心も持ち合わせており、そこから新たな発見や感動が生まれている。すべての原動力は、食材の素晴らしさを活かし、お客を楽しませたいという思いなのだ。

乃木坂 しん
東京都港区赤坂8-11-19 エクレール乃木坂1F
TEL:03-6721-0086
営:12:00〜15:00(L.O.13:30)、18:00〜23:00(L.O.21:30)
休:不定休

Photos:Kazuhiro Fukumoto(MAETTICO) Text:Yui Togawa Edit:Yuka Okada

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