ブルージュの町の豊かさをひと皿に紡ぐ名店『ブリュート』

 旧市街地の市庁舎からほど近く、運河にかかる橋のたもとにビストロ『Bruut/ブリュート』がある。オーナーシェフのブルーノ・ディンベルマンが2013年にオープン。ブルージュの町にオマージュを捧げる思いと、素のままのという『ブリュット』から取り、命名した。また、ブルージュとはフラマン語で『橋』という意味でもある。

 ブルージュの魅力を、さまざまな形で表現したいというディンベルマンの思いは、細部から伝わってくる。例えば、素材。ブルージュ近郊の素材にこだわり、探求する徹底した姿勢は敬意に値する。魚は、毎日北海で漁師が一本釣りで仕留めたもの。バターやクリームなどの乳製品は、近くの酪農家で特別に作ってもらっている。季節の野菜やハーブは、有機栽培の菜園を営む農家に毎日足を運び、選んで店に持ってくる。パンは自然酵母の自家製だ。

 その素材を使って、ブルージュの物語を紡ぐようにメニュー作りをする。例えば、一本釣りのスズキにハーブを詰め、海藻を和えた塩の上で焼いた一品には、北海の味わいが凝縮された『海のエッセンス』のタイトルを。『雌牛をその乳で蘇らせる』は、タルタルステーキ。「タルタルステーキは、ベルギーでも伝統的なビストロ料理ですが、放牧で育てられた健康な牛にオマージュを捧げるために、たたいた肉を塩味の牛乳につけて蘇らせるというアイディアに至ったのです」。

 自ら『Bruut』という名のジンのレシピ開発にも取り組んだ。ベルギーの名産ビールが、以前ホップではなくハーブを使用していたことから案を得る。ハーブを使用したアルコールに税金がかけられたので、それから逃れるためにホップが主流になったという歴史に遡り、原点に戻ることを示唆しているのだそう。

 「この店を通して、ブルージュの魂を伝えたいというのが私の思いです」というディンベルマン。ブルージュの町を愛するからこそ、すべてをリスペクトする。歴史も、エコロジーも、そして未来を紡ぎ出す物語にも。人としての誇りの原点をブリュートの料理に見るのである。

ブリュート
伊藤 文
食執筆家・翻訳家。著書に『フランスお菓子おみやげ旅行』、『パリを自転車で走ろう」、翻訳書にグリモ・ド・ラ・レニエール著『招客必携』、ジョエル・ロブション著『ロブション自伝』、フランソワ・シモン著『パリのお馬鹿な大喰らい』など。近著に『パリ、カウンターでごはん』(2016年7月刊)。 日仏バイリンガルによる食のウェブマガジン&イベントプロデュース“DOMA”主宰運営(http://domapress.com)。2017年8月からはMAG2にて”美食大国フランスから 週刊食関連ニュース”を週刊配信。

Photos:Taisuke Yoshida Text:Aya Ito Edit:Yuka Okada

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