イギリスを代表する建築家デイヴィッド・チッパーフィールドの最新作が、日本で竣工した。兵庫県東部に位置する猪名川(いながわ)霊園の新礼拝堂・休憩棟だ。チッパーフィールドへのインタビューとともに、日本における霊園文化の新時代を探る。

イギリスを代表する現代建築家の最新作は、日本の霊園に立つ礼拝堂・休憩棟

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建築家デイヴィッド・チッパーフィールド(自らが設計を手掛けた猪名川霊園・礼拝堂にて)。初来日は1985年。トヨタオート京都の「TAKビル」(1990)等々、日本に優れた業績を残してきた。大の親日家としても知られ、また2013年には高松宮殿下記念世界文化賞を受賞している。

 新大阪駅から車で北上すること約1時間。大阪府との境にほど近い兵庫県川辺郡に、公益財団法人 墓園普及会が運営する猪名川霊園はある。5月にオープンした礼拝堂・休憩棟の設計を手掛けたのは、サー・デイヴィッド・アラン・チッパーフィールド(以下敬称略)。その名が示す通り、建築界への貢献から2004年に大英帝国勲章(CBE)を授与されたイギリスを代表する現代建築家であり、日本でも数多くの業績を残してきた親日家としても知られる。しかし、霊園施設の設計を第一線で活躍する海外の建築家に託すことは、これまでの日本の常識からすれば非常に稀有な例であることは間違いないだろう。

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猪名川霊園・礼拝堂。設計したチッパーフィールド曰く「この建物の中で、一番純粋な場」。両側に配された中庭を望む大ガラスと、祭壇上に設置された窓から自然光が入る。

 まず解決しなければならなかった課題は、限られた敷地の中に、事務室やビジターラウンジ、法事の後に会食を行うメモリアルルーム、そして宗教を問わずに利用できる礼拝堂を収めるということだった。チッパーフィールド本人の言葉を借りれば、「実務的なニーズと精神的なニーズの両立」だ。

 はたして、彼の最新作として竣工した猪名川霊園の新施設は、国内にあるどの霊園施設とも異なる様相で、威厳や静謐、癒やしを体現する場となったのだ。

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メモリアルルームは、法事の後の会食を行うための施設。布に和紙を重ねたカーテンで、部屋を三つに仕切ることができる。

 建設地の地形や地元にある素材のみならず、文化や歴史までも徹底して調査することで知られるチッパーフィールドだが、北摂山系(ほくせつさんけい)の斜面に広がる猪名川霊園の地形は、デザインの方向性を決定づける重要な要素となったという。

「雛壇(ひなだん)状に広がる霊園の中央を貫く階段が、強烈な軸をなしています。そして、この周辺を山々の景色が囲んでいる。そこで、私たちは気づいたのです。建物はまず、この軸に応えていくものでなくてはいけない。そして同時に、山々に呼応していくものにしなければならないということに」

 また、新施設の建築場所が霊園の入り口にあることから、門としての機能も果たすものでなくてはならない。こうした建物の立ち位置についての追求が、さらなる次元へと建築家を導いたようだ。

「ここに私たちがつくりたかったのは、建築というよりも“ひとつの場”なのです。門となり、また軸となる階段に人々を導き、霊園の中へと誘う場。つまり平穏さや安らかさを感じ、思索を深めていけるような場所でなければならなかったのです」

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門の役割も果たす霊園入り口の礼拝堂・休憩棟から、敷地中央を貫く階段を望む。「日本の野山の色合いと質感」を考慮し、精選した種々の山野草や低木を緻密に配した中庭は、レストランやファッションのプロデュースで知られ、『Japan Houses』などの著者として日本建築を海外に紹介してきた岩立マーシャと上村景観設計が手がけた。