アメリカで言葉の壁を感じイタリアで楽になった。

A:そして突然のアメリカ勤務。英語は得意だったのでしょうか?

牧野:まったく。でも、行ったほうが早いと送り込まれました。しかも副社長というポジションで、やったことのない仕事を。

A:習うより慣れよ、ですね。

牧野:NARSを買収して2年目で、会長として、ブランドのファウンダーでありクリエイティブディレクターのフランソワ・ナーズとも議論を戦わせていました。

A:ストレスも多かったのでは?

牧野:ある日、右目が開かなくなりかけて。病院に行くと、ドクターに笑いながら自律神経失調症手前と言われました。日本人の駐在員がよくなるんだよね、と。でも一番厳しかったのは、中南米4カ国の代理店に解約を伝えるための21日間の出張でしたね。大泣きされたり、罵詈雑言(ばりぞうごん)を浴びたり。反対に、『嫌な話をしに、よくここまで来てくれた。飯でも食おう』と温かい言葉をかけてくれる人もいて救われましたが。気温-20℃から灼熱の40℃の土地への移動で、途中インフルエンザになったりもして2キロ痩せ、肉体的にも精神的にもキツかった。

A:3年で帰国されて。

牧野:ヨーロッパとアメリカのグループリーダー、デパート部への復帰、NARS JAPANの代表を務めた後、また海外に出向です。

A:資生堂イタリアの社長として。

牧野:家族も一緒にイタリアへ渡りました。そこそこ英語はできるようになっていたのですが、大らかなイタリア人が、「伝わればOK」な英語を堂々と話す様子を見て、きれいに話さなくてはという思い込みが消え、以後、外国語で話すことが苦痛でなくなりました。

A:楽しめたようでよかった(笑)。

牧野:音楽とエンターテインメントの聖地ともいえるスカラ座で新製品発表会を行うなど、4年半貴重な経験を。おかげさまで売り上げも好調でしたし。

汎用性が高く誰でも使えるアベンヌの価値を伝えたい。

A:帰国1年後にピエール ファーブル ジャポンの社長に。アベンヌはどんな状態でしたか?

牧野:3年くらい前に一度底を打って、少し上がってきたところでした。でも、会社の雰囲気がオープンでフラットでとてもよかった。

A:トップに立たれてからはずっと右肩上がり。好調の理由は?

牧野:まず何より、今年で日本上陸34年になるアベンヌ ウオーターのポテンシャルです。肌を整える以上の価値がジワジワ浸透し、若い男子など愛用者が広がっています。昨年、年間販売本数が280万本を超えましたから。

A:科学では解明しきれない、ミネラルの奇跡的なバランス。

牧野:本当に、地球の力には驚くばかりです。研究が進み、お伝えできることが増えたおかげで、多くの人が納得してくれるようになったのも大きいですね。

A:ミルキージェルも大ヒット。

牧野:社長に就いたときは開発途中だったのですが、できあがった製品がとてもよくて、これはいける! と確信。使ってもらえば絶対に伝わると信じて、初年度にサンプルを100万個つくったほど。

A:初の日仏共同開発。

牧野:成功したことでフランスからの信頼も高まり、以降毎年、日本向けの商品をつくってくれています。ミルキージェルは会社にとって、一つの転機になりました。

A:社長としての今後の目標は?

牧野:まだまだアベンヌのオリジン、哲学、ストーリーが伝わりきっていないと思うので、もっと多くの方に魅力を知っていただきたいですね。汎用性が高く、いつでも誰でも使える素晴らしい製品なんです。将来的には、売り上げをもっともっと増やして単価をさらに安くし、気軽にたっぷり使えるような、お客様の生活の一部になれたらという夢も。資生堂人生の集大成の時期に、誠実で尊敬できるピエール ファーブル社という会社とともに働けたこと、さらにアベンヌというブランドに携われたことを幸せに思っています。

アベンヌ温泉水100%。肌がスーッと整う!
「老若男女、敏感肌、乾燥肌、オイリー肌にも使え、さまざまなケアができるポテンシャルの高い温泉水です。我が家では洗面台、リビング、寝室と3カ所に置いて、肌が乾いたら家族でシューッ」。南仏アベンヌ村に湧く温泉水を、源泉から直接ボトリング。さまざまなミネラルをバランスよく含み、その後のスキンケアを受け入れやすい肌に整える、スプレータイプの化粧水。アベンヌ ウオーター 300g ¥2,200(編集部調べ)/ピエール ファーブル ジャポン
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洗顔後1品でケアできる、日仏共同開発の保湿ジェル。
「初めて日本向けに開発したジェルクリーム。ブランドの新たな入り口になり、認知度もアップ。今ではアジアをはじめ、世界各国で販売される勢いです」。コンセプトから商品化まで、日仏共同開発。植物由来成分をアベンヌ温泉水と発酵ヒアルロン酸で包み込んだ軽やかなジェルクリーム。化粧水と乳液の機能を持ち、潤うのにベタつきを残さず、なめらかな毛穴レスの肌に。アベンヌ ミルキージェル 50g ¥3,500(編集部調べ)/ピエール ファーブル ジャポン
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YOSHINORI MAKINO
YOSHINORI MAKINO 1960年4月静岡県清水市生まれ。早稲田大学商学部卒業後、83年資生堂入社。デパート営業部門、本社デパート部を経て、2000年に渡米し資生堂インターナショナルコーポレーション(アメリカ地域本社)副社長、NARS会長を歴任。09年には資生堂コスメティチイタリア取締役社長に就任。13年に帰国し14年より現職。

Photos:Kiyohide Hori Text:Eri Kataoka Edit:Aya Aso

(「etRouge」2020年3月号より)

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