化粧品の作り手として、また売り手として、一人でも多くの女性にその魅力を伝えたいと心血を注ぐ愛すべき経営者たち。原点にある情熱、面白さと難しさ、紆余曲折やら思い描くビジョンまで、本誌編集長の麻生綾が思いつくままにインタビュー。今回は、リテーラーから転職、顧客一人ひとりに真摯に向き合うファンケルの姿勢に、今なお共感してやまないという、島田和幸さんを直撃。

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4年間ずっと歌っていました。

麻生(以下A):生粋の広島県人でいらっしゃる?

島田さん(以下敬称略):はい。瀬戸内海側の三原市というところの出身です。今は新広島空港があるし、新幹線の駅も近いですが、すぐ隣の尾道に比べたら、まったく露出のない地味な町で。

A:ということは、もちろんカープファンですよね?

島田:ええ、ほぼ生まれたときから(笑)。でも今はファンケルのさまざまなイベントでもご縁の深い、原辰徳監督の巨人を応援し、弊社の本社がある横浜が本拠地のベイスターズもサポート。カープには内緒で愛を注いでいます。

A:かなり複雑(笑)。大学は京都だったんですね。

島田:一浪後、すべての欲を捨ててひたすら勉強し、同志社に。おかげで、入学してからは遊んでばかりでしたが。

A:大学ではどんなサークルに?

島田:混声合唱団に入りました。同志社には有名な男声合唱団があるのですが、やっぱり男だけじゃ嫌だったので(笑)。

A:ちょっとゆるめに楽しくやろう、みたいな感じだったんですね。

島田:はい。4年間ずっと歌っていました。もう、大学というより部室のある棟に通学していたようなもので、勉強はまったく。だから、いざ就活となっても大手金融機関なんか受けられないわけです。直近に読んだ本の影響で小売業に興味を持ち、一番最初に内定をくれたダイエーに決めました。高度成長期で、ダイエーの売り上げが1兆円を突破し三越を超えた、と話題になった頃で。

A:イケイケの右肩上がり時代。

島田:小売業が人々の生活を豊かにし、社会をよくしていく、という理念、志にも共感しました。

小売りの数字競争とは無縁の、人を育てる仕事の面白さ。

A:入社して最初の仕事は?

島田:広島駅前の店に配属され2年、その後、神戸など4店舗で経験を積んで、本社に。広島駅前店時代には、カープの優勝セールを2回も経験したんですよ(笑)。

A:引きが強い(笑)。本社では?

島田:現場の人のモチベーションを高めて業務の質を向上させる活動=クオリティコントロールという仕事を、トータル10年近く続けました。

A:今でいうメンターとかコーチングに近いイメージでしょうか?

島田:そうかもしれません。売り上げだけでなく、人材が育つことが大事、と信じてやっていました。チェーンストアの“安く仕入れて全国で大量に売る”という1円にこだわる世界とはまったく違う、人の力にフォーカスする職場で、苦労なくスクスク育ったわけです。指導した人やチームが問題点に気づいて成長し、自主的に動きだしたりすると、本当に嬉しくて……といえば聞こえはいいですが、要は好循環をつくってコロコロ転がす担当でした(笑)。

A:てっきり売り上げ戦争の最前線にいらしたのかと! ダイエーでは、創業者の中内㓛さんの秘書もされました。おいくつのときですか?

島田:38歳で突然。それまでは30歳前後の優秀といわれる人が担当していた業務だったので、驚きました。基本、年中無休のオーナーに合わせて生活するので、朝は早いし、人と約束はできないし、なかなかの激務でした。

A:中内さんの退任と同時に、グループ会社のマルエツに転職を。

島田:「法務部をつくるからそこの部長に」といわれて、片道1時間50分の通勤時間を使って、ビジネス法務の勉強を必死でやりました。あんなに勉強したのは浪人時代以来(笑)。ところが1年半後に、秘書部長の辞令が出まして。もう秘書は懲り懲り(笑)、と思ったタイミングで、ダイエー時代に前任の社長室長だった宮島和美さんにお声がけいただき、ファンケルに。

A:いいご縁でしたね。

島田:でも自分がメーカーにとは夢にも思っていなかったので、しばらくはとまどいがありました。

お客様の声を真摯に受け止め 一人ひとりの“不”を解消。

A:それまでの小売業とは相手も考え方もまったく違う?

島田:ダイエーは大衆をターゲットに、「物が自由に買えない、揃っていない」という“不”を解消。対するファンケルは、一人ひとりの不安や不満、不便という“不”を解消。21世紀に入って豊かさの意味も変わりましたから、いいビジネスだと共感しました。

A:同じ“不”でもアプローチが違う!

島田:でも、恥ずかしながら、ファンケルの本当の素晴らしさに気づいたのは社長になってから。経営戦略本部の長として会社の状況を捉える際には、結果である「数字」の視点が主になります。ですが社長就任後は、研究開発やモノづくり、販売など、ファンケルの核の部分を実は知らなかったかもと痛感。150店舗以上を巡回して、店舗スタッフに商品やお客様のことを教えてもらったり、工場や研究所へも積極的に足を運ぶことで、多くの気づきを得ました。

A:会社の特徴を一言で表すと?

島田:研究開発や製造、商品企画、販売も強みではありますが、なにより、お客様の声を真摯に受け止める会社である、ということですね。店舗スタッフがお客様の悩みを解決しようと本気で向き合う姿勢にも、それがはっきり見えます。創業40周年にあたり、お客様にファンケルとの絆エピソードを募ったところ、1400通以上のお声が寄せられまして。防腐剤に肌が反応するから他の化粧品は使えないとか、親子三代で愛用中などの熱いメッセージがとても多く、こちらの思いがしっかり届いているのだと実感しました。

A:また、サステイナブルな活動にも熱心ですよね。先ほどのお話でいうと、今度は地球規模の“不”をなくしていく的な?

島田:創業以来、地域貢献としてのメセナや、環境活動、障がい者支援に取り組んでいますが、SDGsも動き始めたところです。私自身は逃げ切れても、子どもや孫の代を考えると、地球環境や貧困の格差にも本気で向き合わないといけません。小さな会社だからこそ、実践できることがある。廃プラやCO2削減も絶対的な課題だし、何が一番ウチらしいかと模索しているところです。

A:小回りが利く分、地に足のついたことができそうですよね。今後のビジネス的な目標はいかがですか?

島田:新型コロナウイルスの影響で厳しい状況ではありますが、まずはグローバル化。北米や欧州にも広げていきたいです。そして新しいことへの挑戦。販路を広げたり、また将来的には、化粧品とサプリメント以外の可能性も探る。昨年、キリンホールディングスと資本業務提携を結びましたが、異業種他社とのコラボも積極的に考えたい。いずれにせよファンケルが50歳になる2030年に、いい形でつながなければという使命感があります。

A:さらなる飛躍を信じています。

肌解析からつくられるパーソナル美容液。
角層を解析し、現在の肌状態と未来の肌トラブルのリスクを測定する最先端技術を利用。そのデータに基づいた、効率よいケアをもたらすパーソナル美容液。「非常に残念な結果が出まして(笑)、即、購入しました。自分の肌を客観的に見られるのがいいですよ」。1剤のパウダーと2剤のエッセンスを使用直前に混ぜるフレッシュ処方。スキンソリューション 約10日分×3本(1剤パウダー×3本、2剤エッセンス×3本)¥20,370/ファンケル
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紫外線カットに気を使い、しっかり洗顔で清潔感を。
「ゴルフのときはサンガード50+でUVケア。べたつかず男性でも使いやすいです。あとはマイルドクレンジングオイルを週2回、酵素洗顔も週2回。だいぶ肌の調子が整ってきました」〈左から〉メイクがサッと落ちてヌルつきなし。マイルドクレンジングオイル120ml ¥1,700、肌と地球に優しいノンケミカル処方。サンガード50+ プロテクトUV SPF50+/PA++++ 60ml ¥2,500、毛穴の汚れまですっきり。ディープクリア洗顔パウダー(1回分×30個)¥1,800/すべてファンケル
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KAZUYUKI SHIMADA
KAZUYUKI SHIMADA 1955年12月広島県三原市生まれ。同志社大学法学部を卒業後79年に株式会社ダイエー入社。社長室 副室長を務めた後に退社し、2001年に株式会社マルエツ入社。2003年、株式会社ファンケルに入社し、経営戦略本部新規事業部長に。その後、取締役 執行役員、同 常務、専務を経て、2017年より現職。

Photos:Kiyohide Hori Text:Eri Kataoka Edit:Aya Aso

(「etRouge」2020年5月号より)

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