自由と潔さのなかに、若き蔵元の個性が潜む「山の井 白」

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「山の井 白」720ml ¥1,350

 白い紙に白い文字という真っさらな一本。「山の井」のラベルデザインは、いつもシンプルだが、そのなかでも新酒のこちらは、裏ラベルにも「山の井 白 感じるままに飲んでください。」というメッセージと必要最低限なデータのみが記載されている。ボトルの底にはわずかな滓が沈んでおり、注ぐ際にゆっくりと対流する様は粉雪が舞うよう。穏やかな立ち香を感じながら口に含むと、フレッシュなガス感が舌の上で弾み、シルキーで上品な甘みが広がる。お米由来の旨み、甘み、酸味のバランスが非常に秀逸だ。

 福島県の南西部、南会津町にある会津酒造の創業は、元禄年間(1688~1704年)と長い歴史を誇る。真冬には-20度にもなる地域で、地下60mから汲み上げた全国でも屈指の超軟水を使用し、風土を活かした酒造りをしている。「田島」、「会津」の代表銘柄に加え、生産石数のおよそ3割にあたるのが、25BY(2013酒造年度)から全国の特約店で販売を開始した「山の井」ブランド。2010年に蔵に戻った蔵元杜氏の渡部景大さんが、自由な発想で造ることをコンセプトに手掛け、きれいで優しい酒質に仕上げている。


会津酒造
福島県南会津郡南会津町永田字穴沢603
TEL:0241-62-0012
http://www.kinmon.aizu.or.jp/

晩秋から早春に登場する「新酒」の定義と特徴とは?

 寒さが増すこの時期に、続々と蔵から送り出される「新酒」。文字通り、新しくできた日本酒を指す。本来の定義は、酒造年度内(7月1日~翌年6月30日)に造られた日本酒のことを指すため、年度内に出荷されたものであれば、すべて「新酒」にあたる。しかし、日本酒は寒い季節に造る「寒造り」という昔からの習慣で、秋に収穫したお米を使い、冬から春にかけて造られることが一般的。そのため「新酒」は、この年に収穫された新米で造られたお酒という意味で使われることも多い。

「新酒」の魅力は、なんといっても風味のフレッシュさ。火入れ(加熱殺菌)をしていないデリケートな生酒なので、心地よいピチピチとしたガス感から、生まれたてのお酒であることが伝わってくる。保管は冷蔵庫で行い、一度口を開けたものはなるべく早めに飲みきることがおすすめだ。

 酒蔵では、軒先に杉の葉を球形に束ねて吊るし、新酒が出来上がったことを知らせる風習がある。「杉玉(すぎだま)」や「酒林(さかばやし)」などと呼ばれ、酒の神ともされる奈良県の大神(おおみわ)神社が、杉を神木とすることにちなんでいる。吊るされたばかりの杉玉は、まだ蒼々としているが、時の経過とともにやがて枯れて茶色がかってくる。この色の変化が、新酒の熟成の具合を物語っているという。現代では、酒販店や日本酒を扱う飲食店などに飾られていることも多く、日本酒を象徴するデザインとして扱われている。

 食べ物の旬を楽しむように、この季節ならではの日本酒を楽しむ。できたばかりの生き生きとした味わいは、新年の幕開けにふさわしいテイストだ。

外川ゆい
フードジャーナリスト。
外川ゆい 1980年生まれ。グルメ誌やライフスタイル誌を中心に、レストラン、ホテル、お酒など、食にまつわる記事を幅広く執筆する。なかでも日本酒をこよなく愛し、蔵元とお酒を交わす時間がなによりの至福。相手への敬意を込め、常日頃から和装。

Photos:sono(bean) Text:Yui Togawa Edit:Mizuho Yonekawa

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