理論物理学の博士号をもち、有名進学予備校で数学の講師を務める一方、自ら主宰するソムリエスクールで教鞭を執るほか、飲食店経営やワインと日本酒の輸出入業も行うなど、ユニークかつパワフルに活動するワイン研究家、杉山明日香さん。本連載では、彼女が毎月視察に訪れるというシャンパーニュ地方の新潮流にフォーカス。

最も意識するのは、ブドウ畑全体の環境とテロワールを尊重すること

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地下のセラーにて。この樽の中では2019年のワインが熟成中。

 みなさん、こんにちは。「杉山明日香のシャンパーニュ紀行」第18回の訪問先は、若手のスター兄弟が5代目を担う「ベレッシュ・エ・フィス」です。後半では、セラーに移動。引き続き、弟のヴァンサンさんにワイン造りについて伺いながら、テイスティングを行いました。

明日香:ドメーヌの歴史について聞かせてください。

ヴァンサン:ベレッシュ・エ・フィスは1847年に設立され、兄と私が5代目になります。兄とは一緒にやっているので、二人でともに5代目です。
 創業者のアルベール・ベレッシュはハンガリーの出身で、ベレッシュ家はもともとヴェルズネイ村を拠点にしていました。アルベールはもともと、コーヒーに関する仕事と、ブドウ栽培をしていて、当時はポメリーの最大の生産者であったカナール・デュ・シェーヌ家にブドウを提供していたんです。
 第二次世界大戦後、私の祖父のピエール・ベレッシュは祖母と結婚し、自分自身でシャンパーニュを造ると決め、それからドメーヌ・ベレッシュ・エ・フィスとして最初のワインを市場にリリースしました。私の祖母がプティット・モンターニュ・ド・ランスのオルム村とヴァレ・ド・ラ・マルヌのマレイユ・ル・ポルト村にブドウ畑を持っていたので、彼らはちょうど中間地点でもあるここ、ル・クラオン・ド・リュード村へ転居しました。
 その後、家業を継いだ私の両親は、1978年、シャンパーニュの生産により積極的に取り組むと決め、年間3万本の生産量から8万本へとビジネスを発展させました。現在は、私と兄で約10haの畑から9万本のシャンパーニュを生産しています。

明日香:今後ますます、畑も生産本数も増えていきそうですね!

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熟成中のベースワインをテイスティングするヴァンサンさん。

明日香:(地下のセラーにて)この樽は新しいものですか? 中には今年のワインが入っているのでしょうか。

ヴァンサン:はい。この樽には、先ほど足を運んだプルミエ・クリュ「ル・クラン」の2019年のブドウからのワインが入っています。私たちは通常、ブリュット・レゼルヴ(Brut Réserve)というキュヴェのためだけに、新樽を使います。新樽の使用比率は全体の約15%と、少ないです。

明日香:発酵はステンレスタンクまたは樽のどちらで、どのようにされるのでしょうか。

ヴァンサン:70~80%はオーク樽で、残りはステンレスタンクです。野生酵母で発酵させて、マロラクティック発酵(リンゴ酸が乳酸に変化する発酵)は完全にブロックしています。

明日香:どうしてですか?