「モデルを私のアトリエに招き、日常から切り離した環境を整え、彼らとの協働制作というかたちで曲を書いています。芸術家は常にアクシデントを探しています。それが無意識のなせる創作となり得るからです。自動的にエラーを潰(つぶ)し均質化していくコンピューターとは対極に、人の身体にはアクシデントがあらかじめ組み込まれています」とスキリンジは語る。

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© CHANEL

 展示された作品は多彩で饒舌だ。

 女性のたおやかな身体を楽器に見立てたマン・レイのフォトグラムを彷彿させるもの。

 コンテンポラリーダンスのように柔軟性に富んだ身体性を際立たせるもの。

 いまも世界各地の部族がその誇りを示す入れ墨のように儀式性を帯びたもの。

 微妙な表情にオーバーラップするように顔の細部まで五線譜で埋め尽くしたもの。

 また鏡に設置されたインタラクティブな作品には、2018年にココ・シャネルに敬意を表して作曲した弦楽四重奏5番、それぞれの楽器のパートの楽譜が書かれている。鑑賞者が前に立つとセンサーで音楽が流れだす仕掛けで、4点の作品の前に4人が同時に立てばカルテットが完成するはずだ。

 この楽曲は、昨秋このホールで行われたコンサートで世界初演となった。スキリンジ作品のなかでも最も技巧的な作品で、演奏者に解釈を委ねる特殊な記譜法で書かれている。絶えず神経を研ぎ澄まさざるを得ない複雑な曲で、演奏者にとって強靭なテンションとパワーを要するが、その曲想には作曲家の感情が隅々まで昇華されていた。

 彼にとって作曲という営みとは、あらゆるほかの条件を従わせる「聖域」なのだ。

ヤコポ バボーニ スキリンジ展 「Bodyscore-the soul signature」
~2月16日(日) 12:00~19:30 無休
会場:シャネル・ネクサス・ホール(東京都中央区銀座3-5-3 シャネル銀座ビルディング4F)
入場料:無料

Text:Chie Sumiyoshi Editor:Kaori Shimura

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