におい、という言葉に、あなたは何を思い浮かべる?
 炊き立てのご飯とお味噌汁、ワイン、バラの花、香水……好きなもの(のにおい)? それとも、満員電車、汗、靴、生ゴミ……いわゆる“くさい”もの?生きている以上、私たちはにおいに囲まれ、私たちもにおいを放って生きている。においは命の証し――外敵から命を守るための身体システムにも、においが深く関わっているのだ。においと嗅覚、そして「生きること」の深層を結ぶ、芳しきストーリーへようこそ。

“生まれる前、胎児の時期からずっと、私たちはにおいを感じている。嗅覚は五感のベース”

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レモンにみかん……においを感じた瞬間、すっぱい!ってなりませんか? これぞ、においの記憶です。

 ちょっと想像してみよう。私たちの体は、5種類の感覚器官を備えている。目=視覚。耳=聴覚。鼻=嗅覚。舌=味覚。皮膚=触覚の5つだ。もし、このうちどれか一つを手放さなくてはいけないとしたら、どれを選ぶ?
 こんなアンケート(不人気投票?)を行うと、トップはたいてい「嗅覚」だという。ほかの4つと比べたとき、「においなら、なくなってもいいか」と感じている人が多いというのだ。

 まあ、気持ちはわからなくもない。台所周りやトイレなどで感じるにおいの多くは、不快な気分にする“悪臭”だ。ハウスキーピングの観点からいえば、そういったにおいは「あってはならない」もの。また、体臭や口臭、おならなど、体がにおいを発する現象も、エチケット的にはアウトである。

 一方で、料理のにおいや花の芳香といった、心地いいにおいもある。これらは当然、好ましいものだが、それ以上に「消えてほしいにおい」の存在感が大きいようだ。そのせいだろう。スーパーやドラッグストアには「消臭」「無臭」をうたうグッズが並び、「スメルハラスメント」なる言葉さえ登場した。そんなご時世だから、嗅覚も「なくてもいいか」と思ってしまう、そんなところだろう。

 要するに、今の世の中では、嗅覚は軽視されがちなのである。だが、頭で考える価値観と、体が本能的ないし生得的に有する価値観が乖離(かいり)しているのは、よくあること。例えば、頭では「やせたい」と思っているのに、食欲が「もっと食べたい」と訴える、そんな状況は、誰もが経験しているはずだ。

 では、体は、嗅覚のことをどう捉えているのだろう? 「遺伝子の視点」から考えてみよう。