銀座のイベントスペース「シャネル・ネクサス・ホール」で2月14日(木)まで開催中の、スペイン出身の画家、アントニ タウレの展覧会。現実と虚構が同居する幻想的な作品世界に、魅了される人が続出中だ。日本初の貴重な個展をお見逃しなく。

アントニ タウレの絵画が触れる、ほのかな暗がりの中の人生

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© CHANEL

 スペイン出身のアーティスト、アントニ タウレが描き出す世界は、あるひとつの個性的な形式に貫かれている。それは室内の「内側」と、扉の向こうに広がる「外側」のコントラストだ。そして、両者の境目の部分にはとりわけ細心の描写が施されている。
「内側と外側をつなぐ曖昧な境界ともいえる開口部の存在に、強く意識をフォーカスして描いています。外の世界はより遠くに感じられ、内の世界はより近く感じられるように。人と世界の距離感やペルソナの問題に置き換えることもできるかもしれません」とタウレは語る。
 本展では、純粋な絵画作品と、写真にペインティングを施したミクストメディアが混在する。絵画にも、写真にも、がらんとした室内にまばゆい光が射し込む「書き割り」のような光景がとどめられている。いずれもその開口部から覗くのは、光躍る海や草原、あるいは古代の遺跡がたたずむ雅(みやび)な風景だ。
 今回発表された新作のテーマは「光の島」。1970年以来、タウレが暮らすスペインのフォルメンテーラ島の風景をモチーフにしている。地中海西部のイビサ島近くにあるこの島は、南欧特有の豊かな自然と、4000年もの時が刻まれた巨石遺跡を抱く。これらはタウレにとって、とりとめのない宇宙的時間の概念をもたらすインスピレーションの源泉となった。

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 ひとつのフォーマットに基づきながらも、それぞれの絵画の構図は多様だ。ある作品では、水平線が外から内へと無限に続くかのように暗示する。またある作品では、正方形の画角のなかで対角線と地平線が交わり、儀式的・瞑想的な図形にも見えてくる。
 タウレのこの構図や筆致は、19世紀ベルギーを中心に興(おこ)った象徴主義の精神を明快に受け継ぐとともに、彼が建築や舞台美術の分野と深い関わりを持つことを示唆する。明るい外の世界と暗い内の世界の境界には、常に自己と他者、個人と社会の視線が交錯し、虚構と現実とが交ざりあっている。
「アイデンティティというものは、内から形成されるべきもので、外の社会から与えられるものではないのです。人生は暗がりの中で起きています。現代の楽園は、光と闇のあいだにあるのかもしれません」
 タウレ自身がこう語るように、きわめて象徴的な意味をもつ彼の作品世界は、鑑賞者にその解釈を完全に委ね、観る者のアイデンティティにほのかな暗がりでタッチする。

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アントニ タウレ Photo by Sarah Moon
アントニ タウレ「光の島」
~2月14日(木) 12:00~19:30 無休
会場:シャネル・ネクサス・ホール(東京都中央区銀座3-5-3 シャネル銀座ビルディング4F)
入場料:無料

Text:Chie Sumiyoshi Editor:Kaori Shimura

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