ドラマ『偽装不倫』でヒロインと恋に落ちるカメラマン・伴野 丈役を演じ、人気を集めた宮沢氷魚さん。公開されている初主演映画『his』で演じている井川 迅(いがわ しゅん)は、少年時代に出会った初恋の彼・日比野渚(ひびの なぎさ)への思いを断ち切れないまま、小さな田舎町で孤独に生きている青年。物語はその渚が、自身の娘を連れて転がり込んでくるところから始まる。描かれるストーリーは、LGBTQの現代的なテーマを扱いつつ、ただひたすらに一途でピュア。「透き通った鮎の稚魚」にちなんだという「氷魚」という名前そのままの透明感で演じる本作に、俳優としてのどのような進化があったのだろうか?

同性愛者であることを隠す、どうにもならないつらさと孤独

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──まず脚本を読んで、迅はどんな人物だと思いましたか?

 どことなく自分と似ている気がしました。自分に正直になりきれないところや、問題を自分だけで解決しようと、抱え込んでしまうところとか。心に熱いものがあるタイプでもありますよね。脚本を読んだ段階から、いろいろなことを感じ、思うところがたくさんある人だとは思っていましたが、演じてみて、さらに繊細な印象が強まりました。

──「繊細さ」とは、たとえばどんなところでしょうか?

 最初に脚本で読んだ時点では、白川という小さな田舎町で「今後は限られた人間以外とは関わらない」と決めてしまっていて、あまり揺るがない、頑固な人という印象だったんです。でもそうではなくて、周囲の反応を敏感に感じ取り、影響をうけ変化できる人間だなと。いい意味での弱さというか繊細さがあり、だからこそ人間らしい。たぶん本当は人懐っこく、もっと素直に、もっと人と関わりたいと思っているんですよね。だから、そういう部分を押し殺し、自分に嘘をついて逃げているのがすごくつらい。実際に演じてみて、そういう部分を強く感じました。

──迅が同性愛者であることを隠し、自己矛盾の中で生きていた回想シーンがありますよね。

 サラリーマン時代の飲みの席で、同僚や先輩に「ゲイ疑惑」でイジられるあの場面は、精神的にも体力的にも、すごくしんどかったです。ああいう場面って、実際、普通に生活していればよくあるじゃないですか。迅のような立場ではないにしろ、悩みやコンプレックスをイジられ、笑いにされて。でもそれに対して何も言えず、そういう自分もすごくイヤで。

──宮沢さん自身にもコンプレックスはありますか?

 ありますよ。いっぱいあります。言えないですが(笑)。たまにそういう痛いところを突かれると、笑ってごまかしつつも、内心では「気付かれてる!」とショックを受けていたりします。だから、ああいう場でのどうしようもないしんどさは、すごくわかるんです。どうすれば正解だったのかと考えましたが、正解はないんだろうなと。笑って否定してその場はしのいでも、周りにも自分にも嘘をついているのは、自分自身がよくわかってる。かといって、そこでカミングアウトするのも、果たして得策なのかどうか……。

──迅と渚の関係性はどんなふうに思いました?

 迅にとっては渚の存在がすべてだと思います。 渚の場合は、妻も娘もいる。「誰かのために生きたい」と思える相手が、迅以外にもいるんです。でも迅の場合は誰もいないんですよね。親は描かれてないし、本当に一人で。迅は渚のために生きてきたし、フラレた後も渚を思って生き続けているんですよね。

──この役の演技に生かせるような片思いの経験はありますか?

 片思いかあ……。渚ほど純粋で、一途な経験というのはないですね。でも常に思っているわけではないけれど、たまに会うとちょっと気になる相手は、この10年くらいいます。付き合ってはいないし、相手に好きだと言ったこともないし、そもそも「好き」という感情と言い切れるかどうかもわかりませんが、そこにいると気になってしまう人。

──片思いって、「つらい」と「楽しい」という人に分かれますが、宮沢さんはどんなふうに思いますか?

 楽しい……んですかねえ。どうなんだろう(笑)。ただ迅の状況は、正直言ってひどすぎるというか、本当に「渚ってヤツは!」と思いました。相手を平気で傷つけておきながらケロッとしていたり、急に「やっぱりキミしかいない」と言いだしたりして。でも実は結構いっぱいいるんですよね、そういうタイプ。

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