言葉がないシーンこそ難しい

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──今泉力哉監督の現場で、成長したと思うことは何ですか?

 今泉さんは「まずは自分で考えて、何かを生み出してください」みたいな感じがすごくあるんですよ。「気持ちがちゃんとできてからやろう」と、演じる上で考える時間を与えてくれる。おかげで僕の中では初めてと言っていいほど、役の気持ちに100%に近くシンクロできた気がしました。

──この演技を見てほしい! という場面はありますか?

 選ぶのは難しいけれど、縁側でカフカの『審判』を読む場面はすごく印象に残っていますね。台本上では「迅、縁側でカフカを一人で読む」くらいしか書かれていない、セリフのない場面なので、30分くらいで撮り終えるかなと思っていたんです。でも今泉さんは、座り方とか姿勢とか、空気感にすごくこだわって、1時間くらいかけて撮っていらして。セリフで説明できないからこそ、役の佇まいだけで、何を考え、今までどういう経験をしてきたのか感じさせなきゃいけない、その難しさを学びました。

正直に生きることは、すごく勇気のいること

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──宮沢さんはインターナショナルスクール出身で、海外での生活経験もありますよね。LGBTQの方は周囲に普通にいましたか?

 そうですね。だから映画で描かれているような差別意識に接すると、ちょっとびっくりします。そこまで受け入れがたいものなのかなって。LGBTQのことに限らず、何に関しても、全員が大賛成! というふうになるのは難しい。「そういう生き方もあるんだ、ふうん」っていうくらいでいいと思うのですが、「普通じゃない」など過剰反応する人がいるのは、なぜなのかと思います。

──今回の作品で、さらに考え方が変わったことはありますか?

 自分が想像していた以上にLGBTQという生き方が、個々の人間だけでなく、国の制度においても受け入れてもらえていないんだなと感じました。後半に、渚との離婚調停や親権をめぐるやりとりがあるのですが、あの場面では特に感じましたね。裁判になっても当てはまる法律がないし、他と何も変わらないのに認めてもらえない。そもそも法律に当てはまらないこと自体が差別的なことで、見直すべきなのではと思いました。すごくセンシティブな問題で、誰もが納得するかたちは難しいと思いますが、この作品が考えるきっかけになるといいなと思います。

──この作品では「愛がすべてを解決する」というような、ご都合主義的な描き方はしていませんが、迅と渚と、渚の元妻・玲奈のこじれた関係が、ある種の着地点を見出すことができたのはなぜだと思いますか?

 愛、とはちょっと違いますよね。難しいですね……でも、自分に正直になれるか、なれないかというところかなあ。自分や相手の置かれている立場、状況、気持ち……そのすべてを踏まえた上で、それでもやっぱり正直になれるかどうか。そこに尽きるのかなって思います。

 結局、みんなが自分に嘘をついて生きてきたから、こうなってしまったんだと思うんですよね。正直になるって、実はすごく勇気がいることじゃないですか、それによって何かを失うこともあるし。とりあえず嘘をついてやりすごすのは簡単だし、そのほうが楽に生きられる。でもそれを承知で、全員が正直になる道を選んだ、その結果だったんじゃないかなと思います。

『his』
監督:今泉力哉 出演:宮沢氷魚、藤原季節ほか
1月24日(金)より、新宿武蔵野館ほか全国公開中
©2020映画「his」製作委員会
宮沢氷魚
1994年4月24日アメリカ・カリフォルニア州サンフランシスコ生まれ、東京都出身。『MEN'S NON-NO』(集英社)専属モデル。2017年、テレビドラマ「コウノドリ」第2シリーズ(TBS)で俳優デビュー。以後、「トドメの接吻」(18/NTV)、「僕の初恋をキミに捧ぐ」(18/EX)や『映画 賭ケグルイ』(19/英勉監督)等に出演。神奈川発地域ドラマ「R134/湘南の約束」(18/NHK BSプレミアム)では主演を務めた。「BOAT」、「豊饒の海」、「CITY」と舞台にも意欲的に取り組んでいる。今夏にOAされたテレビドラマ「偽装不倫」(NTV)では、ヒロインと恋に落ちる年下イケメンカメラマンを演じ、話題を集めた。PARCOオープニング・シリーズ第1弾「ピサロ」が3月13日より上演開始。

Photos:Yow Takahashi(Portrait / Rooster) Interview & Text:Shiho Atsumi Edit:Mizuho Yonekawa


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