「母がいなくなってしまった世界」は想像できない

──真里がいなければ、サトシは母親との別れを受け入れられなかった気がします。松下さんから見た真里という女性の魅力は?

 確かにサトシさんはお母さんの死を目前にしてもなかなか受け入れられず、このまま一緒に死のうとしているんじゃないかという感じでしたね。そんななかで、お母さんとの別れを受け入れるよう、「ここぞ」というタイミングで背中を押せる真里は、本当にいざという時に頼りになる女性だなと。それを前面に出さない人柄もいいですよね。

──プロポーズも、実は真里から。

 何も言わないサトシさんを見て、私自身、思わず「何か言わなきゃ」という気持ちになってしまいました。サトシさんを演じる安田さんが、お母さんのこととなるとどこか頼りなくて、私が守らなきゃという気持ちにさせられるというか(笑)。でも逆に、自分の母親の最期に、これくらいいろんなことを考え、いろんなことをしてあげたいと思える男性って、すごく素敵だなと思いました。

映画の原作となったのは、作者の宮川サトシさんの実体験をもとに描かれた同タイトルのエッセイ漫画。
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──サトシに限らず、「自分の母親がいない世界が想像できない」という人は、もしかしたら多いような気がします。

 そうですね。私も家族と一緒に暮らしているので、そこがぽっかり空いてしまったらどうすればいいんだろうと……。この映画が教えてくれるのは、そういった部分なのかもしれません。サトシさんたち家族はお母さんが望むように送り出してあげられたんじゃないかと思うし、お母さんのほうは残された家族が毎日をどう生きていけばいいのかを教えてくれたような感じで。倍賞さんが演じるお母さんは、本当に素敵な方で、最後の最後に粋なものを残してくれる。すごく幸福な形だなあと。

 母に限らず、近しい人が最期に何を望むのか聞いておかなきゃと思いましたし、それまでをどう過ごすかを考えるきっかけになりました。そしてあらためて、大切な人のことを大事にしようと思いましたね。

──ちなみに松下さんのお母さんは、どんな方なのでしょうか?

 どうということはない、普通の人です。私と似ています……というか、私が似ているんですが(笑)。うちは仲がいいせいか、私が30代になってからは友達のように思えてきたり、どっちが母親かわからないような時もありますね。母はちょっとぬけているところがあって、「またそんなことやってるの?」みたいなことが多く、日々笑いを提供してくれるんです。それさえも愛おしく思えるようになりました。お互いがそういう年齢になってきたんだなと、しみじみ思います。