被写体のヌードを抽象的なモノクロのシルエットで表現するフランスのアーティスト、ピエール セルネの写真作品と、世界的にもますます注目をあびる日本の春画を対比する展覧会が、3月13日(水)から銀座のイベントスペース「シャネル・ネクサス・ホール」でスタート。グラフィカルな写真作品とユーモラスな春画とのコントラストを楽しめる、貴重な機会となりそうだ。

フランスと日本の「性愛」の表現に鼓舞される、普遍的な人間観の復権

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Kaitlin & John, 2015 © SP2X

 シャネル・ネクサス・ホールでこの春、フランスと日本の「性愛」の表現を通して、人間観を見つめ直す展覧会が開催される。

 フランス出身のパフォーマンスアーティストで写真家のピエール セルネは、写真作品シリーズ「Synonyms(同義語)」を通して、世界の人々のあいだに存在する類似点を探求してきた。本展では同シリーズから、文化的、民族的に異なる背景を持つ個人あるいはカップルのヌードを展示する。それは生々しい肉体ではなく、モノクロのシルエットによる極限まで抽象化された形態であり、それをどう認識するかは鑑賞者に委ねられている。各作品のタイトルには被写体となった人物の名前がつけられているので、それらが彼/彼女の性別や国籍、民族的・文化的背景を推測する唯一の手がかりとなる。

 しかし、ブラック&ホワイトの画面をおおらかにはみ出し、かろうじて断片的に胸やお尻のカーブを想像させるが、生身の特徴や差異を見分けられない肉体のかたちは、あまりにもせいせいとしている。人類共通の重要なテーマである「性愛」や「性行為」を象徴してはいるが、エロティックさは微塵も感じさせない。

「私たちはそれぞれ他人とは異なる唯一無二な存在である一方で、普遍的な共通点を持っています。だからこそ、違う文化やライフスタイル、さまざまな人々をもっと受け入れるべきです」とセルネは語っている。

 アメリカに渡ってビジネスで成功を収め、世界最大規模のファインアートのデータベースartnet.comを設立しながら、再び自身の創作に戻り、作家活動に取り組むセルネの人間観がどう変容してきたのか、実に興味深い。

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喜多川歌麿「歌まくら」 天明8年(1788) 浦上満氏蔵

 一方、世紀を超えてセルネの写真作品に邂逅するのは、浦上蒼穹堂・浦上満コレクションの春画である。今回展示されるのは、鈴木春信、鳥居清長、喜多川歌麿、葛飾北斎らの作品。江戸時代、浮世絵の一分野として人気を博し、多くの著名な絵師が筆をとり、数千点を超える作品が制作された春画は、さまざまな絵画的実験の宝庫でもあった。絵師たちの奇想と摺(す)り師の熟練した技術とのコラボレーションによって生まれた大胆な構図や色彩、描線は、印象派をはじめとするヨーロッパの画家にも大きな影響を与えた。

 2013年、ロンドンの大英博物館で「Shunga: sex and pleasure in Japanese art (春画:日本美術における性のたのしみ)」展が大きな話題を呼び、春画の評価はもはや世界的に定着した感がある。2015年には、東京の永青文庫で開催された「春画展」が連日大賑わいで、なかでも数多くの女性の鑑賞者であふれたことは記憶に新しい。その両展で中心的役割を果たした立役者である浦上満氏による夜のギャラリートークも、会期中に予定されている。

 江戸時代の日本人は性愛をおおらかに捉えていたといわれる。観る人をほっこりとさせるユーモアのセンスが光る春画は「笑い絵」とも呼ばれ、嗜みのひとつとして、男女や貴賤の区別なく愛された。婦女子へのやんわりとした性教育のツールでもあったという。近代に入り、明治の開国とともに、日本人の「性」の意識は、むしろ厳格になっていったが、私たちの遺伝子に刷り込まれた普遍的な人間観は、春画の表現を触媒にあぶり出しのようによみがえるかもしれない。

「ピエール セルネ & 春画」
3月13日(水)~4月7日(日) 12:00~19:30 無休
※前期3月13日(水)~27日(水)、後期3月29日(金)~4月7日(日)
3月28日(木)は展示替えのため休館
会場:シャネル・ネクサス・ホール(東京都中央区銀座3-5-3 シャネル銀座ビルディング4F)
入場料:無料

Text:Chie Sumiyoshi Editor:Kaori Shimura

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