明治や大正、昭和初期に建てられた建造物には、現代の建物とは異なる魅力がある。DJ、モデル、ファッションデザイナーとして多彩な顔を持つMademoiselle YULIA(マドモアゼル・ユリア)が、そんな近代建築をナビゲート。今回は、彫刻家・朝倉文夫のアトリエと住居だった朝倉彫塑館を訪ねた。

MADEMOISELLE YULIA
東京生まれ。DJやシンガー、着物のスタイリストとして活躍。国内外のコレクションのフロントロウを飾る、ファッションアイコンとしての顔も持つ。大正時代や歌舞伎、着物などに造詣が深く、ヴィクトリア&アルバート美術館で開催中の「KIMONO展」メインヴィジュアルのスタイリングを担当。今年3月に日本の伝統文化を専攻していた大学を卒業。
http://yulia.tokyo/yulia/

前衛的ともいえる、真っ黒に塗装された館

 上野から谷中にかけては、東京藝術大学や東京国立博物館など、芸術にゆかりの深いエリアである(Vol.11でご紹介した国会図書館国際子ども図書館も近くにある)。谷根千(やせねん)という言葉も定着し、下町の街並みを楽しみに数多くの人が訪れる。そんな文化の薫りが色濃く残る谷中に朝倉彫塑館は佇んでいる。もともとは彫刻家・朝倉文夫が東京美術学校を卒業した明治40(1907)年、24歳の時にアトリエ兼住居として建てられたのが始まりだ。増改築や敷地の拡張を経て、今の建物は昭和10(1935)年に完成。設計は朝倉自身によるもので、随所に芸術家らしい工夫が施されている。コンクリート造と木造が組み合わされたユニークな建造物であり、外壁を黒く塗装した重厚なファサードが特徴だ。

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昭和39(1964)年に朝倉が逝去した後、遺族により公開されるようになった朝倉彫塑館。シャツ ¥330,000、トップ ¥68,000、スカート ¥170,000、ピアス ¥82,000、シューズ ¥94,000(すべて予定価格)/バーバリー(バーバリー・ジャパン TEL:0066-33-812819)

 中に入ってまず圧倒されるのは、天井高8.5メートルのアトリエ。安定した北窓からのトップライトだけでなく、東南にも窓を配し、三方向から自然光を取り入れている。制作に影響を与える光と影を意識した採光だ。

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アールを設けた壁は、陰影を和らげる効果が。大きな作品を制作するにあたり、アトリエには電動昇降台が設置されている。地下の深さ、7.3メートル! ユリアさんの背後には『小村寿太郎像』が。

 続く書斎の壁面は、天井まで作り付けの書棚で覆われている。関東大震災を経て、「書棚は建物の壁のようにする」と明言した朝倉のこだわりようが垣間見られる。蔵書は日本近代美術史における貴重な書籍を含んでいる。

「書籍に囲まれて過ごすのが夢なので、理想的な書斎です」(ユリアさん)。 さて、ここまでがコンクリート造アトリエ棟だが、ここからは一気に和の空間に変貌する。木造住居棟に入るやいなや出迎えるのは、大きな回廊式の中庭。各部屋からの眺めを計算した石の設置にも朝倉の美意識が。中庭は、朝倉の考案をベースに、造園家・西川佐太郎が完成させた。

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〈左〉天井まで届く書棚が圧巻。 〈右〉外観からは想像もつかない、寝室からの眺め。巨大な石と樹木で構成される濃密な中庭だ。