「毒親」から自分を解放するには

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──著書を読んで、親と⼦の関係はともに変数で、「毒親」はその掛け算で⽣まれるのだなと感じました。

 そうですね。⾃分が変われば、もし親が変わらなかったとしても、親子の関係値そのものは当然変わってきますね。

──親⼦関係は、感情よりも科学で読み解くほうが、冷静に整理できるのかもしれませんね。

 感情で、冷静に、というのがそもそもむずかしいですよね(笑)。科学は冷静であるためには強力なツールで、ニュートラルに現象を観察できるとても有効な手段です。これまで学者たちが積み上げてきた知の蓄積を、多くの人に役立ててほしいなと思っています。

──「毒親」から⾃分を解放する、何かしらのシフトチェンジを促すために、すぐに実践できることってありますか?

「毒親」の呪縛に苦しんでいる⼈は、ほとんどが健全な⾃⼰肯定感を持てていないだろうと思います。自分を大切にしよう、といってもやり方がわからないんです。なので、まずは形からでも、⾃分を⼤事に扱う練習をすることを勧めたいと思います。

 たとえば、お茶を飲むときに、最高のお客さまに出す⽤のカップを自分にも使う。誰にも会う予定がなくても「よそ⾏き」の高価な服や美しいジュエリーをつける。その姿を自分に見せ、自分で確認するためです。⾃分は、そうした扱いにふさわしい人間だということ、その上質なカップや高価な服や美しいジュエリーに⾒合う⼈間だということを。それを⾃分に見せて、自分が素晴らしい人間であることを納得させていくんです。

──「どうせ私なんて」という⾃⼰卑下をする思考回路は、親からの刷り込みだけでなく、社会からも仕向けられているように感じます。

 そうですね。「毒親」になる親⾃⾝も、⾃尊感情が低いのだろうと思います。これはたしかに、社会によって傷つけられてしまっているところもありますね。ただ、生育環境にあまり救いがなかったとしても、結婚相手や周囲の友人たちに助けられて、健全な自尊感情を持つことができるようになっていくこともあるのです。

 私ももともとはあまり自尊感情は高くなかった人間ですが、結婚相手がよく、夫の自然な自尊感情のあたたかさに触れて変わることができた部分も⼤きかったのです。彼の健全な自尊感情は、私を過剰に持ち上げたり、病的に溺愛したりすることはなく、淡々とあたたかく、⼀⼈の⼈間として尊重してくれる。こういう人を選ぶことができて幸運だと思います。でも、もしかしたらそういう男性は少数派かもしれません。

──⾃⼰肯定ができないと「私にはこの程度の⼈がお似合い」とか⾔いがちですよね。

 それは本当によくないことです。傷つけられた⼈は、自分を誰かが愛してくれるということを信じにくくなってしまうものですが、たとえば「私に会えてうれしいでしょ」とまでは⾔えなくても、「一緒にいられてうれしいね」くらいは言えるようになりたいですね。「こんな自分に会いに来てくれるなんて……」ではなくて。

 そしてもし、相手が自尊感情を損ねるようなことをわざわざしてくる人だったとしたら、そういう関係は、断ち切る勇気も持ってほしい。

──でも実際にいい出会いが、なかなかない場合は?

 最初は、生身の相手でなくてもいいんですよ。働く世代の⼥性って「⼈疲れ」しているところもありますしね。直接的なコミュニケーションでなくても、いろいろなことを教えてくれる人格はたくさんいますよ。映画やドラマ、本やマンガでもいい。少年漫画が私は好きで、『キングダム』の王騎将軍とか人としてかっこいいですよね(笑)。若い芽を育てようとするあたたかさとか……。

 フィクションの中の、⾃分のあり⽅を肯定できる⼈物や⾔葉を、⼼の中にたくさん蓄積していくのって地味だけれど自分を豊かにしますよ。それを続けるだけでもかなり違ってくると思います。自分が豊かになれば、近くに集まる人も自然と豊かな人が集まってきます。

中野信子
1975年生まれ。脳科学者、評論家。東日本国際大学特任教授。東京大学工学部応用化学科卒業、東京大学院医学系研究科脳神経医学専攻博士課程修了。2008年から10年までフランス国立研究所にてニューロスピン博士研究員として勤務。MENSA元会員。

Photos:Akinobu Saito Interview & Text:Shiho Atsumi Edit:Mizuho Yonekawa


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