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ベンジャミン・ミルピエ「Freedom in the Dark」 誉田屋源兵衛 黒蔵 supported by Zadig & Voltaire © Takeshi Asano - KYOTOGRAPHIE2019

 ニューヨーク・シティ・バレエ団、パリ・オペラ座などで活躍した元プリンシパルで、現在は振付家、映画監督として知られるベンジャミン・ミルピエも本展に参加している。近年「L.A. Dance Project」を立ち上げた彼は、アメリカ社会でこの15年ほど見られる人々の集中力の低下と時間の使い方に注視する。L.A.市街を背景に無機質な群像を撮影したイメージと、スタジオでまさに心身を解放する瞬間のダンサーたちのイメージが対比されているが、どうしても踊り手の歪みや捩れといった身体の変容に意識をもっていかれる。「テクノロジーと娯楽産業に隷属する役割を振り付けられたパペットである私たちは、病的なナルシシズムを抱え、人生の深みを奪われています。ダンスという身体表現は心身を一致させ、自由意思を解放し、自分自身と向き合う瞬間をもたらしてくれる」とミルピエは語ってくれた。

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〈左〉アルベルト・コルダ「彼女について」 〈中〉ルネ・ペーニャ「私について」 〈右〉アレハンドロ・ゴンサレス「彼らについて」 アルベルト・コルダ、ルネ・ペーニャ、アレハンドロ・ゴンサレス「彼女、私、そして彼らについて キューバ:3人の写真家の人生と芸術」 y gion © Takeshi Asano - KYOTOGRAPHIE2019

 近年、緩やかな国交正常化と自由主義政策で注目されるキューバから、3人の写真家が紹介されている。

 故人であるコルダは、チェ・ゲバラら政治的指導者たちのポートレートで知られるが、キューバ革命以前はファッション・フォトグラファーとして活躍した。女性をこのうえなく美しくとらえるアイデアに長けた彼の写真は、革命のイメージ浄化に政治利用されたが、うつろいやすい人間美への真摯な洞察は、裏腹に革命についての美学的証言とも受け取ることができる。

 アメリカの資本主義に搾取された時代から、革命後の厳格な社会主義政権下、そしてユートピア幻想が崩壊しつつある現在まで、ルネ・ペーニャは自身の強靭な肉体を題材に写真表現を続けてきた。艶やかな女装も辛辣なヌードも、楽園の綻びをパフォーマンスで表現する「社会的身体」であるといえる。

 最も若い1974年生まれのアレハンドロ・ゴンサレスは、2つのシリーズを通して、国家権力が隠蔽してきた社会主義革命の矛盾と挫折を伝える。いまだ監視の目が厳しいキューバ社会の水面下で息づくゲイコミュニティなど、若者たちのリアルな生態は、まるでアメリカの若いスター写真家の作品に擬態するかのように屈託がない。シミュレーショニズムの手法を取り入れた「再構成」シリーズでは、深刻な物資不足を抱えるキューバ社会を象徴するリサイクル素材を使い、革命後の開発計画のひとつである巨大プロジェクトを精緻でチープな模型で再現。コンセプチュアルでありながら頭でっかちに陥らず、彼の世代にとっての「負の歴史」を軽妙なアイロニーを込めて暴露する。