いかにも「昭和」な父親の、切なさや愛しさに注目を

──では、この作品では何が「ワクワク」でしたか?

無口でぶっきらぼうな父・勝をつとめた藤竜也さんと、その可愛らしさで藤さんも市川さんもノックアウトした、母・有喜子役の倍賞千恵子さん。中央で丸まっているのが、猫のチビ。
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 やっぱり倍賞さんと藤さんのお2人とご一緒できることですね。本読みの時に初めてご挨拶したんですが、私の右に倍賞さん、左に藤さんがいらして、「!!!!」という状況で。すごく緊張しましたが、ちょっと和やかな空気もあって──というのも、猫のチビが目の前にいて、倍賞さんに撫でられながら、ずーっと寝ていたんです。本当におとなしくて、こんないい子がいるなんて!と思っていたら、どうやら遠くから車に揺られてきたせいで、車酔いしていたらしく(笑)。現場では「あれ、別人? 若返った?」っていうくらい元気でした。

──倍賞さん、藤さんの印象はどのようなものでしたか?

 お2人とも本当にチャーミングな方でした。倍賞さんは現場でも本当に可愛らしい方で、菜穂子がお母さんを叱るという場面では、あまりに可愛いらしいのでそういう気持ちになれず、素直な気持ちが勝って「もういいや」と思いそうに(笑)。藤さんも言葉の端々で、倍賞さんを可愛らしく感じていらっしゃるのが伝わってきました。演じられているお父さんは、靴下まで奥さんに脱がせてもらうような古いタイプなんですが、藤さんご自身はそういう部分が一切ない方でもあるうえに、倍賞さんがあまりに可愛いので、演技とはいえ無体な扱いがしにくいと(笑)。

──今回の映画は夫婦や結婚の幸せについてもテーマだったと思いますが、市川さんがとくに感じたことは何ですか?

 台本を読んだり、最初に完成品を見た時点では、お母さんや娘の目線で「何なの!このお父さん!」って思う部分が多かったんです。藤さんのいかにも「昭和のお父さん」な感じ──たとえば、朝一番に庭で「えい! えい! えい!」と大声上げて屈伸して、パンパンと柏手を打つところなんか、他人事なら面白いけど、あんなの毎日やられたらイヤだろうなあなんて(笑)。
 でも今回取材前に見直したら、なぜか完全にお父さん目線になっていて、すごく切なくなってしまったんです。自分に起きている大変なことを妻にすら言うことができず、突然いなくなったチビに自分を重ねて「チビは自分の無様な姿を見せたくないんだ」と呟く、その姿が。
 年を重ねると、若い頃には想像すらできないことが起きても、きっとプライドや見栄が邪魔してそれを素直に受け入れられない。お父さんの年齢までにはいきませんが、本当に若い年齢というのを過ぎた私にも、少しわかるような気がするなって。そこに「人が生きていくこと」の悲しさとか愛しさのようなものが凝縮されているように感じました。

──同じ映画なのに、印象が全く違ってしまったんですね。

 そうなんです。1回目に見た時から2回目に見るまでの1年間に、私が家族と過ごした時間も影響しているのかもしれないし、タイミングもあるのかもしれません。最後にお父さんが言うセリフも、最初はそれほど注目していなかったんですが、2回目には本当に心に響きました。いろいろあったうえで、一緒に人生を歩む一番近い相手にそう言えること、そう言ってもらえることの幸せを、映画を見てくださった方にも感じていただけたらうれしいです。