明日香:なるほど。有機農法にはポジティブな印象ばかりが先行しがちですが、ブドウだけでなく、土壌を含めた畑全体やその将来をも考え、判断しなければならないんですね。

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昔ながらの圧搾機を使用。ただし圧力を測定し、調整できる油圧プレスシステムになっている。

明日香:(醸造所に移動して)収穫を終えてからのシャンパーニュ造りにおいて最も重要な工程はなんでしょうか。

ジャン・エルヴェ:プレス(圧搾)ですね。私たちはここ、Dizy(ディジー村)に3つ、Avize(アヴィーズ村)にひとつ、合計4カ所にプレス機をもっています。シャンパーニュでは収穫時、手摘みのブドウを小さなかごに入れて運ぶのですが、ブドウは非常にデリケートなので運ぶ時間が長いとすぐに傷んでしまうんです。そのために、各畑の中心地にプレス場所を設けました。
 私たちの畑はブドウ栽培地の中では冷涼で、茎や種はあまり成熟しません。なので、ブドウのプレスには繊細さが非常に重要で、熟れていない茎や種を傷つけずに果汁を抽出する必要があります。茎や種も一緒にプレスしてしまうと、その苦味やえぐみのある香りが果汁に入ってしまいます。

明日香:プレス機が4カ所にあるなんて、すごいこだわりですね! プレスについて、もう少し詳しく教えてください。

ジャン・エルヴェ:プレスには、基本的に2つの方法があります。まずひとつは古くからの方法で、平らなシリンダーで、ブドウを垂直に押すもの。もうひとつは近代的な方法で、同じくシリンダーでプレスするのですが、均一に押すことができるように、空気の膜で挟むものです。私たちは垂直に力を加えることのできる、従来のプレス機を使っていますが、それには多くの理由があります。
 第一に、ブドウをプレスする様子を直接確認することができます。第二に、ブドウの表皮が果実と接したままなので、ブドウそのものの味わいを果汁により取り込むことができます。ブドウの実と実の間に十分な隙間をとって、沈殿物をできるだけ少なくし、より美しい色合いの果汁を得られる伝統的な方法を私は信頼しています。とはいえ、古いプレス機に現代的な工夫を加えていて、ブドウにかかる圧力を測定し、調整できる油圧プレスを備えているんです。この制御システムによって、よりスムーズな果汁の抽出が可能になりました。

明日香:伝統と最新のテクノロジーの融合によって、素晴らしい味わいの果汁が得られるんですね。

(後編に続く)

杉山明日香
理論物理学博士。ワイン研究家。唎酒師(ききざけし)。
有名予備校で数学講師を務める傍ら、ワインスクール「ASUKA L’ecole du Vin」にてソムリエ資格試験対策講座を主宰。東京・西麻布のワインバー「GOBLIN」、パリの和食店「ENYAA Saké & Champagne」を経営するほか、ワインと日本酒の輸出入業も。東京とパリを2週間ごとに行き来する多忙な日々。著書に『ワインの授業 フランス編』『ワインの授業 イタリア編』『受験のプロに教わるソムリエ試験対策講座』など。

Photos:Yuji Ono Text:Asuka Sugiyama Editor:Kaori Shimura

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