理論物理学の博士号をもち、有名進学予備校で数学の講師を務める一方、自ら主宰するソムリエスクールで教鞭を執るほか、飲食店経営やワインと日本酒の輸出入業も行うなど、ユニークかつパワフルに活動するワイン研究家、杉山明日香さん。本連載では、彼女が毎月視察に訪れるというシャンパーニュ地方の新潮流にフォーカス。

有機農法が抱えるリスクについても、細心の注意を払う

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ジャン・エルヴェ・シケ氏と。ブドウ樹の背丈はかなり低め。

 みなさん、こんにちは! 「杉山明日香のシャンパーニュ紀行」第10回は、シャンパーニュ地方を流れるマルヌ川沿いに広がるヴァレ・ド・ラ・マルヌ地区に位置する「ジャクソン」を訪問しました。メゾンまではシャンパーニュの中心であるランスから車で30分ほど。

 ジャクソンは、かつて皇帝ナポレオンが愛し、彼の結婚式でもふるまわれ、メダイユ・ドール(黄金のメダル)を献上されたというシャンパーニュの名門中の名門です。現在は、兄弟二人による新しい発想でのシャンパーニュ造りが有名。今回は、お兄さんのジャン・エルヴェ・シケさんに話を伺いました。

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〈左〉コルドン方式では主枝を1本、水平方向に長く伸ばし、新梢は短く剪定される。至るところで新芽が出始めている。 〈右〉このあたりでは4月中旬頃にデブールマン(萌芽)が見られる。

明日香:本日はお会いできるのをとても楽しみにしていました! さっそくですが、メゾンの歴史を教えてください。

ジャン・エルヴェ:私たちのメゾンは1798年、フランス革命のときにランスで始まりました。私自身は1970年代にメゾンがDizy(ディジー村)へ移転したときから、家業に携わるようになりました。その当時は、15ヘクタール分を自分たちのドメーヌ(=ブドウ栽培醸造家)として、30ヘクタール分をネゴシアン(=卸売業者)として、年間45万本以上のシャンパーニュを造っていました。現在は、私と弟のローランとで、さまざまな試行錯誤をしながら、より高品質なシャンパーニュ造りのために力を注いでいます。

明日香:具体的に、どのような取り組みをされているのでしょうか?

ジャン・エルヴェ:何よりもはじめに私たちが着手したのは、畑のコンディションを整えることでした。質の悪い土壌やブドウ樹を取り除き、畑を最高の状態にすることから始めたんです。その結果、良質のブドウを得るために収量を制限し、生産本数を年間25万本と以前の半分近くにまで減らして、より高品質なシャンパーニュを造れるようになりました。ドメーヌ用の畑を28ヘクタールと増やし、自分たちの表現したいシャンパーニュを造っています。