理論物理学の博士号をもち、有名進学予備校で数学の講師を務める一方、自ら主宰するソムリエスクールで教鞭を執るほか、飲食店経営やワインと日本酒の輸出入業も行うなど、ユニークかつパワフルに活動するワイン研究家、杉山明日香さん。本連載では、彼女が毎月視察に訪れるというシャンパーニュ地方の新潮流にフォーカス。

母なる自然がシャンパーニュ造りの才能を与えてくれた

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地下のカーヴ。中央に小樽、両側に大樽が配置されている。

 後編では、ジャクソン兄弟のお兄さんであるジャン・エルヴェさんに、兄弟の関係やメゾンの将来など、ご家族についてより踏み込んだお話を伺いました。

明日香:(地下のカーヴにて)まず、ジャクソンといえばいわゆるキュヴェ700番シリーズのエチケットに記された7から始まる3桁の数字が印象的ですが、これはいつからつけるようになったのですか?

ジャン・エルヴェ:これはもともと、このメゾンで瓶詰め時にキュヴェにつけている生産番号で、1898年にメゾン創業100周年を記念して造られたものが1番となっています。2000年に私たちがこの700番シリーズを造ったときの製造番号がそこから数えて728番目だったので、それをシリーズ名として、以降、生産番号をキュヴェ名とすることにしました。

明日香:そこから数えての700番代なんですね。歴史の重みが感じられます。700番シリーズの特徴を教えてください。

ジャン・エルヴェ:このシリーズはノンヴィンテージのシャンパーニュではありますが、いわゆる普通のノンヴィンテージシャンパーニュとは真逆の哲学で造っています。つまり、通常は収穫年の異なるリザーヴワインをアッサンブラージュ(=複数のベースワインを調合すること)することで、収穫年による差異をなくし安定した品質を目指すのですが、私たちはそういう一貫性を目指すのではなく、収穫年の細かな差異や個性に焦点を絞って、それを解き明かすことを目的にしていて、アッサンブラージュはあくまで味わいの複雑性のために行っています。ジャクソンのほかのキュヴェが単一畑によるテロワールの表現とすると、このシリーズでは収穫年の個性を表現したいと思って造っています。
 また、キュヴェ700番シリーズでは4年の瓶内熟成を経てまず一度リリースしていますが、このシャンパーニュのポテンシャルをより解放するためにさらに熟成を続け、瓶内で9年熟成した時点で、デゴルジュマン・タルディフ(=遅い澱抜きという意味)ヴァージョンとして2度目のリリースをしています。

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キュヴェごとに熟成されるベースワインが並ぶ。美しく清掃、整頓されたカーヴや、照明などにもセンスがうかがえる。

明日香:とても興味深くて贅沢な試みですが、気が遠くなるような長さですね。ジャン・エルヴェさんはご兄弟でシャンパーニュ造りに取り組まれていますが、どのようにメゾンの意思決定をされているんですか。