新型コロナウイルスの感染が急拡大したイタリア。医療崩壊がまさに起こりかけていたその頃、現地では何が起こり、人々は何を考えていたのか──新刊『コロナの時代の僕ら』は、世界的なベストセラー作家であるパオロ・ジョルダーノさんが、その瞬間を捉え、書き下ろしたエッセイ集。いまだウイルスの脅威にさらされ、ウイルスとともに生きていかなければならない私たちは何を変えるべきなのか、リモートインタビューをした。

ロックダウン下のローマで感じたこと

──『コロナの時代の僕ら』を書いた理由は何だったのでしょうか?

 今後の予防のため、次にこうしたパンデミックがこないようにするためです。

──この本を執筆した頃、イタリアではどのような状況でしたか?

 この本は2月末から3月初旬に、雑誌『コリエーレ』に寄稿したエッセイ数点に、書き下ろしのエッセイを加えて1冊にまとめたものです。ちょうど、イタリア人の誰もが、新型コロナウイルスの情報に飢えていたタイミングでした。

 でも本当に大変なことになったのは、本を書き上げた後です。約1カ月半で医療崩壊が始まり、ロックダウンに入り……最近になってようやく落ち着いてきて、今は半分くらい日常生活が戻ってきています。でもひょっとしたら、これから先のほうが今まで以上に苦労する可能性もありますね。

──本に書かれたいら立ちやモヤモヤ、政府や専門家に対する一般市民の不信感は、日本人もまさに感じています。

 思うに、テレビに専門家が出始めた段階、つまりすでに状況が悪化した段階で、彼らの話に耳を傾けるのでは遅すぎたのです。

 科学の世界ではこうしたパンデミックの可能性は前々から想定されていたのに、政治家たちはそれを予防する措置を何ら取ろうとせず、今になって「こんな事態は全くの予想外だった」と言っている。これは気候変動についても同じです。何か大きな危機が起こるたびに「こんな事態は予想できなかった」と言う。でも実際はそうではなく、何年も前から問題は指摘されていたのです。だから今の状況は、僕たち全員の責任であるとも思います。

──人間は理性や知性で、こうした問題にあらかじめ対処できないのでしょうか?

 残念ながら僕たちの知性の働きは、限定的なのです。実際に危機に直面しないと、きちんと意識できない。

 例えば、僕の最初の記事も、もしもう1週間早く掲載されていたら……ここまでの反響は得られなかったかもしれません。まさにあのとき、危機が迫ってきたタイミングだったのです。事前に人々に抽象的な危機感を持たせるのは、とても難しいと思います。

『コロナの時代の僕ら』(早川書房)

──イタリアがロックアウトされていたここ1カ月半、どのように過ごしていましたか?

 この本を含め、本当にたくさんの文章、記事を書きました。僕は決してウイルスの専門家ではありませんが、数学や物理の知識があるので、一般の人よりは分かることも多い。こういうときには、他の人より理解している人が説明して、知識を共有することが大切です。そうすれば、皆の不安もいくらかは和(やわ)らぐはずですから。

──本や小説も読みましたか?

 記事や論文ばかりで、小説などは全然読みませんでした。普段は小説をかなり多く読む僕にとっては、ありえない異常事態です。自分の周りで起きている現実が大きすぎて、小説の世界にはまったく入ることができなかったのです。

 日中は重い現実を前にしても、割と平静でいられるんですが、夜になるとだんだん違和感が高まり、非現実的で奇妙な感覚につきまとわれるような感じでした。その感覚が非常に強いものだったので、しまいにはそれにも慣れてしまい、人間はどんな状況にも適応するんだなと感じましたね。

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