ビフィズス菌や乳酸菌は本当に健康に寄与してる?

「糖尿病、自己免疫疾患、アルツハイマー病や自閉症などの幅広い病気が、腸内細菌の異常と関連していることがわかってきました。腸内細菌と健康が強く結びついているのは、間違いありません」。早稲田大学理工学術院で腸内細菌の解析を進める服部正平教授は、こう話す。「ただし、『病気の人ではこの菌が減っている』といったデータの中に、日本では善玉菌と呼ばれる菌、例えばビフィズス菌や乳酸菌の名が挙がることは、まずない。これらの菌が、健康と関係していることを明確に示したデータは、今のところありません」。

 これだけでも衝撃的だが、さらに驚く話がある。服部教授らは過去の研究で、炎症性疾患と関わりが深い17種の細菌群を特定した(2013年『Nature』に発表)。この菌たちは集団で体に作用し、炎症を抑える「Treg細胞」を増やす。炎症性疾患の患者ではたいていこの細胞が減っているのだが、17種の菌を投与すると、Treg細胞が増えて炎症が鎮まるという。

 一方、体の中には、炎症を強める細胞の「Th17細胞」もある。この細胞が減ると、感染などに際して十分な免疫力が得られない。そして、Th17細胞を増やす細菌群もある。こちらは20種の菌集団で、これを投与すればTh17細胞が増えて炎症が強まるのだ(15年『Cell』に発表)。

「炎症を鎮める17種と、強める20種。作用は全く逆ですが、実はこのうち7種が共通なのです。その7種は善玉菌? それとも悪玉菌?って聞かれても、答えようがないでしょ(笑)」(服部教授)

上げながら、下げる!? 腸内細菌こそ、正真正銘のマルチプレーヤー。
近年、体の免疫系にはたらきかける腸内細菌グループが相次いで見つかっている。Treg細胞にはたらきかけて炎症を抑える17種類の菌グループと、Th17細胞にはたらきかけて炎症を強める20種類の菌グループなどだ。作用は逆向きだが、菌の顔ぶれを見ると、7種類は共通だという。「炎症を強めるグループ」と「炎症を抑えるグループ」の両方に名を連ねるこれらの菌が、どんな役割を果たしているのかは、まだわかっていない。

 いったいどんな仕組み? と頭を抱えたくなる話である。服部教授も「その7種がどんなはたらきをしているのか、現時点では全くわからない」と話す。ただ、炎症を「強める菌」と「弱める菌」を2つに分けることが難しいほど、腸内細菌の作用が複雑に入り組んでいるのは、間違いない。まさに、「事実(ノン・フィクション)は小説(フィクション)より奇なり」の世界である。

 服部教授は、「そもそも腸内に常在している細菌の中に、“悪玉”という存在はない」と力説する。外界から消化管へ入った細菌は、通常、免疫作用によって体の中への侵入をブロックされ、速やかに排泄される。腸内細菌が腸内にすみ着いていられるのは、体がそれらの菌に対して免疫反応を発動しないから。体が“許可”しているから、とどまっていられるのだ。

「進化の過程で人体は、メリットになる菌だけを選んだはず。その意味で、すべての常在菌は善玉菌。外から侵入する病原菌(例えば、腸管出血性大腸菌O157)は別として、腸内細菌の中で“悪玉菌”という概念は、本来、成り立ちません」(服部教授)