“The Legendary Linda(伝説のリンダ)”(2000年のUS VOGUE特集タイトルより)と呼ばれるメイクアップアーティストがいる。まさに生きるレジェンド、世紀を超えて今なおトップをひた走るイギリス人アーティスト、リンダ・カンテロである。そんな彼女が先日、デザイナーのジョルジオ・アルマーニ氏とともに来日。2020年クルーズ コレクションのバックステージメイクという大役を果たした翌日、プレス各社を集めた朝食会というラフなかたちでアルマーニ ビューティの“秘密”を教えてくれた。

すべては「リップ マエストロ」の開発から始まった。

およそ80人のモデルが闊歩!
5月24日、東京・上野の東京国立博物館の表慶館で行われた、アルマーニ初となるクルーズ コレクションのランウェイショー。アルマーニ氏の来日は実に12年ぶり。
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 「僕を驚かせるようなリップを!」、それが、アルマーニ氏の唯一のリクエストだったわ。そのお願いに応えて作った最初の口紅が「リップ マエストロ」。今もブランドのベストセラーであり続けるリキッド状のルージュね。ピグメントに水ではなく、ファンデーション「フェイス ファブリック」に使われているシリコンベースを混ぜてみたの。それででき上がったのが、このベルベットのような独特のマットテクスチャー。

 「リップ マエストロ」は色も素晴らしくてね! ファッションショーのバックステージでモデルに使う口紅は、臨機応変にその場で混ぜ合わせてぴったりの色を作るの。だから「リップ マエストロ」もバックステージ生まれって言われている。その頃は化粧品を作るラボなんかなかったから、ピグメントなどをパンパンに詰めた重いスーツケースをいつも持ち運んでいたわ。あるときNYでの大きなショーで、あまりに荷物が多くていっさいがっさい段ボールに入れていたら、アルマーニ氏に「それはなに?」と聞かれてしまって……。ほどなくして、ミラノに素敵なカラーラボができたの。

 いただきものを仕事で使うことはない。それはアーティストとして恥だと思っているから。リップもアイシャドウも、すべてバックステージで素早く作ります。そして、その現場での発想を商品化しようとするから、「これまでにないもの」ばかりで毎回ローンチにこぎ着けるのが大変(笑)。たとえば、アルコールとオイルのファンデーションとか。そんなの聞いたことないでしょう?(笑) ラボでは皆、ハチのように飛び回ってアイデア交換をしているわ。

時代がようやくアルマーニ氏に追いついた。

 アルマーニコスメの核は、やっぱりアルマーニ氏本人です。彼はインスピレーションの宝庫。男性だから、彼の視点はメイクではなく、常に女性自身に注がれているの。ハッとさせられるべきは「素敵な色」ではなく、「素敵な女性」のほうでないと。今の時代、いわゆるトレンドのようなものはない、と私は思っています。「今シーズンはこういう服を着るべき」とか、なくていいの。今の自分の気分こそがトレンドなのよ。これは、アルマーニ氏の変わらぬ哲学でもある。この20年くらいで、彼の考えに同調する人はかなり増えたんじゃないかしら。

 一方、昨今のSNSなどがもたらす風潮には、興味深いけど危険性も感じています。皆、完璧を求めすぎでは? そもそも、メイクとは自分を気分よくさせるもの。メイクはツールで、生活をアップリフトするもの。「しなければ」のオブセッションで自分を180度変えることには、私はやや懐疑的です。もともとの自分にもっと自信を持ってほしい。どこで境界線を引くの? 一生オンラインの中で生き続けるの? 特にUSではインスタグラマーの登場で、時代が少し逆戻りしてしまったような気がします。ものすごい厚塗り。極端なコントア(陰影)。昼夜の差がないメイク。若い女性たちが、ちょっぴり影響されすぎちゃっているんじゃないかしら。「それってどうなの?」って少しだけ思います。

LINDA CANTELLO
ジョルジオ アルマーニ ビューティ インターナショナル メイクアップアーティスト。
LINDA CANTELLO ロンドンのHARROW ART SCHOOLを卒業後、ローマにてメイクアップアーティストに。その類いまれな感性と審美眼は、20年以上にわたりファッション業界に多大な影響を与え続けている。
https://www.armanibeauty.jp/
【日本女性へのアドバイス】アジア人は西洋人より目と目の間隔が広いので、目頭にポイントをつくると目もとが締まります。また、街を歩いていると頬と唇のハーモニーが正しくない人がちらほら。リップを頬紅にも使うと簡単に統一感が出せますよ。あと、いつまでたっても20代のときと変わらないメイクをしている人もいるでしょう? まずはファンデーションを見直して。お勧めはすっぴんでカウンターを訪ね、何も言わずにBAの人に一からメイクをしてもらうこと。先入観のないメイクは、自分をニュートラルに観察できますよ。
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リップ マエストロ
2012年に誕生した、鮮やかな発色・なめらかな使い心地・マットなツヤ感を誇るリキッドルージュ。マットリップより輝きがあり、グロスよりも洗練された「ルミナスマット」というテクスチャーを確立。写真はショーで使用した#500。全19色 各¥4,200

Photos:Giorgio Armani Beauty Edit & Text:Aya Aso