映画 『利休にたずねよ』の題字などを手がけ、さまざまな活動が注目される書家の木下真理子さんが、日本のパワースポットを訪れる企画の第6回。

[画像のクリックで拡大表示]
室生山(むろうさん)の山中にある「天の岩戸」。室生には三つの龍穴と六つの岩屋を指す“九穴”、五つの渕と三つの池を指す“八海”の「九穴八海」があり、それぞれに伝説が残されている。
[画像のクリックで拡大表示]

 神道の神域である三輪山の近くには、「海柘榴市(つばきち・つばいち)」と呼ばれる古代の市場(藤原京の玄関口としても機能)がありました。そこは、大阪湾から大和川をつたって遣隋使の小野妹子が帰国した場所。ほどなく、仏教文化が飛鳥で開花しました。

 “以和爲貴/和を以って貴しと為し”。ご存じの通り、これは「十七条憲法」の第一条に出てくる有名な文言ですが、さらに第十七条には、“必與衆宜論/必ず衆(もろもろ)と與(とも)に宜しく論(あげつら)ふべし”とあります。立場や価値観が違ってもよく論じ合うようにと説かれているのです。

 物部氏と蘇我氏による “(原始)神道”と“仏教”の覇権争いはあったものの、私たちの祖先は二者択一をせずに、神も仏も一緒に敬ってきました。それはやがて「神仏習合」という信仰体系として昇華していきます。

 旅の最終日は、この神仏習合の関係性を帯びた龍穴神社と室生寺を訪ねてみました。この二つは三重県との境に程近い、室生山にあります。

室生寺より古い歴史と伝説を有する龍穴神社

 樹齢400~500年と言われる連理(れんり)の杉をはじめとして、巨木が立ち並び、人の手がほとんど加えられていない自然の中に、ひっそりと拝殿は佇んでいます。麗らかな木漏れ日が差し込み、境内にはこのうえなく清浄な気が漂っていて、穏やかなひと時を過ごすことができました。これは、神社の背後に室生川が流れているからなのかもしれません。

 龍穴神社は平安中期に編纂された『延喜式(えんぎしき)』の神名帳に、既に明記されています。奈良、平安時代には朝廷の勅使(ちょくし)によって“雨乞いの神事”が営まれていたようで、神社の祭神として「高龗神(タカオガミノカミ:雨を司る神)」が祀られていますが、それより前から、この山では水の神「龍神」が祀られていたようです。

 また拝殿には「善如龍王社」の額も掲げられていました。干ばつが続く中で、空海の請雨に応じて現われたという “善如龍王”の名があることからも、神道と仏教との結び付きが窺えます。室生龍穴の“神”とこの真言宗の“善如龍王”とが結び付けられた信仰は、10世紀に入って確立したとみられています。

[画像のクリックで拡大表示]
平安時代の初め頃、龍穴神社は「龍王社(宮)」と呼ばれ、室生寺は「竜王寺」と呼ばれていたという。秋祭りでは、毎年共同の儀が執り行われ、不即不離の関係は千数百年後の今も続いている。

 拝殿の奥には、春日造の朱塗(しゅぬり)が施された本殿があり、これは藤原氏の氏神を祀る春日大社の摂社・若宮の旧社殿を譲り受けたとされる説もあるそうです。