パートナーとの関係を一歩進めたい。しかし、法律婚には抵抗がある。そんな人たちに広まりつつあるのが「事実婚」だ。ただ、現在の事実婚は法で守られる婚姻関係ではない。籍を入れることなくパートナーシップを結びつつ、法律婚に近い権利を得るにはどうしたらよいのだろうか。事実婚の当事者でもある行政書士の水口尚亮さん、橘 昭子さん夫妻に、そのハウツーを教わった。

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事実婚で行うべき手続きとは

「事実婚」とは、籍を入れないかたちで結んだ婚姻関係を指す。法律婚との大きな違いは、どちらも結婚前の姓を名乗り続けられることだ。ともに行政書士である水口尚亮さんと橘 昭子さんは、2011年に夫婦別姓を求めて事実婚という婚姻関係を選択した。「おおよそ法律婚と変わらない結婚生活を送っている」と話す。

 とはいえ、法律に則った婚姻関係と同等の権利を手に入れるためには、いくつかのポイントがある。夫妻は、以下の4つの方法で事実婚関係を結び、結婚生活をスタートした。

事実婚のための書類手続き


  •  準婚姻契約書(公正証書)
  • 婚姻関係を結んだあとの互いの義務と権利についてまとめた契約書のこと。法律婚であれば民法で義務づけられる「同居・協力・扶助義務」「貞操義務」「夫婦財産契約」といった内容だけでなく、子どもの親権や契約解除(離婚)に関する項目も。公証役場にて作成後、原本は公証役場に保存され、写しのみがそれぞれに渡される。これが、事実婚を証明する対外的な書類にもなる。


  •  住民票
  • 世帯をともにするため、住民票を1つにする。どちらかが世帯主となり、もう一方は「妻(未届)」「夫(未届)」という続柄になる。


  •  遺言書
  • 事実婚関係の夫婦は、パートナーの法定相続人になることはできないため、相続についてはそれぞれ遺言書を残しておく。年齢によっては、財産を限定しないかたちで誰に何割を残すなど一般的な内容にとどまるケースが多いため、60歳、70歳など一定の年齢に達したタイミングで見直すのがよい。


  •  任意後見契約書(公正証書)
  • どちらかが認知症などで意思決定能力が低くなってしまったとき、もう一方を支援者とするための契約書。任意後見人は、本人の代理として介護サービスの契約、財産管理などをすることができる。子どもがいない、子どもをもつ予定がないなどの場合はとくに必要。


     このなかでもっとも重要なのが「準婚姻契約書」だ。水口さん橘さん夫妻は、将来のさまざまな可能性を考え、互いの義務と権利について話し合ったという。

    「子どもが生まれたとき、互いの親族の介護が始まったとき、離婚するとき、死んでお墓に入るとき……。将来、起こりうる事柄についてどう行動するのがいいのか、検討を重ね、覚悟をもって最善の契約をしました」(橘さん)

     出産や子育て、介護などの問題について事前に話し合えたことは、結婚生活を始めるにあたってプラスだったと橘さん。

    「法律婚の場合、離婚したあとのことまで考えて結婚する人はほとんどいませんよね。でも私たちは、最悪の事態が起きたらどうふるまうのか、互いの親族に対してどう向き合いたいのかを結婚前に確認できた。互いの価値観を理解し合ってから結婚生活がスタートできたので、その後のすれ違いが少なくてすんだ気がします」(橘さん)

     法律婚を選択した場合でも、こうして人生観を共有する機会は必要なのではないかと二人は振り返る。

    事実婚のメリットとデメリット

     法律婚をするならば、妻が夫の籍に入って名字を変えることがまだまだ一般的だろう。しかし橘さんは、「“橘 昭子”を名乗れなくなったら、自分が自分でなくなる気がした」と話す。

     水口さんと橘さんは、行政書士として事実婚を望むカップルのサポート業務を行っている。二人のもとを訪れる相談者もまた、名字を変えたくないという人が多いそうだ。橘さんのように自分の名前がアイデンティティーと結びついているという人、仕事で使う名前を変えたくないという人、一人娘などの事情で結婚前の姓を名乗り続けたいという人もいる。

    「子育てが終わり、法律婚から事実婚に切り替えたいという50代の方もいました。姓を変えたことにずっと違和感を抱き続けてきたそうです」(水口さん)

     籍を入れないことにメリットを感じる人たちもいる。例えば、高齢でパートナーをなくした者同士が、子どもや孫との関係をそのままに婚姻関係を結びたいと望む場合だ。法律婚をしてしまえば、配偶者に相続権が生じるため、どちらかの死後、もめ事をまねきかねないからだろう。

     ただし、籍を入れない婚姻関係にはいくつか難点もある。