衝撃の引退宣言から復帰。その後の軌跡

 3つ星を獲得することは料理人にとって、夢のようなもの。と同時に、世界の美食家たちから注目され、世紀の料理人として君臨し続けることの大変さを13年間経験した彼は、最高の状態のままで終止符を打ちたいと引退を決意。51歳のときだった。

 その後もロブション氏は、自らがプロデュースするテレビの料理番組に出演し、また一流レストランの監修や執筆を行うなど、精力的な活動を続けていた。そして、2003年に大きなターニングポイントが巡ってくる。レストランを開きたいと切に願う5人の愛弟子たちの相談を受け、彼らの共同経営者となり、新しいコンセプトのレストラン「ラトリエ・ドゥ・ジョエル・ロブション」をパリと東京・六本木に2店舗オープンし、現役に返り咲いたのである。

 ラトリエのコンセプトはコンヴィヴィアリテ(懇親性)。そのため、気楽で居心地のいい雰囲気のなかで、美味しい料理を食べられるカウンタースタイルを主体とした。赤と黒で統一された店内はモダンでスタイリッシュだ。

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パリのラトリエ・ドゥ・ジョエル・ロブション・エトワールにて。 1 ディナーの各料理に合わせて、シャンパンやワイン、日本酒の獺祭がサーブされる。 2 前菜のソローニュ産のキャビアとサーモンの料理。 3 見た目も美しいデザートのカヌレ形のスフレ。

 17年にパリの「ラトリエ・ドゥ・ジョエル・ロブション・エトワール」のシェフに抜擢された女性シェフのメラニー・セール氏は、ロブション氏について「私にとって神様のような存在です。味覚が鋭く頭脳明晰で、厳格な人。一方でとても優しく、カリスマ性のある方ですね。彼の視線の方向に常に緊張が走ります」と笑顔で語る。厨房で45名の男性の料理人を束ねていくのは並大抵のことではないはずだが、「女性としての利点を生かし、人の2倍の努力をして、ロブションのフィロソフィーにのっとり、愛情をもって料理を作っています」とキラキラと輝いた表情で話してくれた。

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1 モナコのモンテカルロの「ジョエル・ロブション」などで経験を積み、 昨年からラトリエ・ドゥ・ジョエル・ロブション・エトワールのシェフを務めるメラニー・セール氏。45人の料理人を率いて奮闘中。 2 シャンゼリゼ通りにあるラトリエ・ドゥ・ジョエル・ロブション・エトワール。カウンター席で、シェフの手仕事や食材を眺めながら食事できるのが魅力。

Photos: Sumiyo Ida Text: Mariko Awano

続編

獺祭とのコラボ、レトルト食品も――巨匠ジョエル・ロブションが挑戦し続ける理由