想い出は胸にしまい、苦い想い出は捨て去り、夢を抱きながら今を精いっぱい生きる──女の情念、人生、そして悲しみと愛とを謳い紡ぐ日本の宝。時にジャズシンガーとして魂の歌を歌い継ぐ世界のディーヴァ、八代亜紀。自身の歌と人生を語るスペシャルライヴがいま、ここに。

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「八代亜紀=演歌」。これが、皆さんが私に抱くイメージでしょう。でも、それは“思い込み”(笑)。実は、私と歌との最初の出合いはジャズでした。当時の歌は皆“流行歌”、そして歌手も皆“流行歌の歌手”と呼ばれていました。“演歌”というカテゴリーは後追いでできたものなんです。でも本来、歌にジャンルなんてない。どんなジャンルでも歌は歌ですから。祖父も人前で歌っていたし、父も浪曲が好きだったので、歌好きはもはや家系ともいえるでしょう。そんな父は、私が幼い頃、家でよくジャズのレコードをかけていました。言葉は分からないけれど、その衝撃たるや! 一瞬にしてそのリズムの虜になってしまいました。

歌は魂を反映するもの。「歌手の私」を育んだ銀座時代。

 その後、クラブ歌手として銀座や新宿のクラブを巡って歌い始めたのですが、なにしろ当時の私はまだ10代。女心を歌うには人生経験も浅く、若すぎました。どうやったら女心がつかめるの──? 日々そんなことを考えながら、巡っていた銀座のクラブには、どんなに苦しくてもお客様の前では決して涙や苦労を見せず、顔で笑って心で泣く、そんな女性たちの表と裏の顔があふれている。そうだ、この女たちの情感を、私なりに歌に込めてみよう。そう思って、この生まれ持ったハスキーボイスで歌ったところ、皆さん号泣されて。ほどなくしてデビューし、“八代亜紀=女心を唄う歌手”のイメージが定着したのは、銀座での経験の賜物だと思います。

 20代には連続ミリオンヒットにも恵まれ、環境も随分変わりましたが、30代で人間関係に大変苦労しました。だから、名曲に恵まれていたにもかかわらず、この頃の歌はいまだに平常心で聴くことができないんです。いかに精神的に強い私でも、疲弊した心をおし殺して歌っているのが分かるから。歌は魂を反映するものと言いますが、私生活で悲しいときに悲しい歌は歌えない。聴き手が苦しくなってしまうから。だから、情念の歌は幸せなときにしか歌えないんです。『舟唄』のイメージでお酒に強いと思われますが、実は一滴も飲めません。でも、人のお酒にはとことんつき合います。逆に飲まないからこそ、お酒の唄が歌えるのでしょうね。

ブラウス¥178,000/シャッツィ・チェン 帽子/スタイリスト私物 ジャケット¥45,000、ドレス¥49,000/ともにマーク ケイン・イザ(イザ) 指輪/スタイリスト私物
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紆余曲折を経て。人生最高の時は“いま”。

 美容ですか? 大好きですよ。一番参考にしているのが90歳になる母。洗顔をした後、手のひらで顔を温めながらパッティングして、血色が良くなったら保湿クリームを塗るだけなのですが、肌が本当に綺麗なんです。でも、私は化粧品が大好き。いろいろ使いたくなるので人から勧められるとすぐ買ってしまい、段ボールに3箱はありますが、最後まで使い切らず全て三日坊主(笑)。化粧品以外だと、あとは無糖ヨーグルトを毎朝欠かさず食べたりかな。でも、何でも好きなものをいただいています。じゃないと、人生楽しくないじゃない?(笑)

 いまは大好きな絵を描きながら、フジロック・フェスティバルに参加したり、NYでジャズを歌ったり。永久会員になったフランスの「ル・サロン」の絵画展では、パリの方が「この画家さん、歌も歌うんだ」って(笑)。いろいろな枠を超えて自由になったら、人生がより楽しくなりました。ジャンルは違っても、歌は歌。今、ようやくよい歌が歌えるようになったと思えるんです。聴いてくださった方に、“亜紀ちゃん、よかったよ”と言ってもらえることが私の生き甲斐。愛されていることを実感できる瞬間なんです。ええ、たくさん愛されてますよ。だって、私も愛をいっぱいあげてるもの。いまが一番幸せかな。そして、昨日より今日、今日より明日がきっともっと楽しいんだって思います。

八代亜紀
熊本県八代市出身。1971年デビュー。1973年、出世作『なみだ恋』を発売。その後、『愛の終着駅』『もう一度逢いたい』『舟唄』など数々のヒット曲を出し、1980年『雨の慕情』で第22回日本レコード大賞・大賞を受賞。芸能生活40周年を迎えた2010年に、文化庁長官表彰を受ける。絵画では、世界最古の美術展、フランスの「ル・サロン」で5年連続入選を果たし永久会員となる。2012年、ジャズアルバム『夜のアルバム』が邦人アルバム史上最大級となる世界75カ国で配信される。2018年5月31日 NHK大阪ホール、2018年6月1日 Bunkamuraオーチャードホールにて、海外交流コンサート“TANDEM”シルヴィ・バルタン「フォーエヴァー・シルヴィ ライヴ・イン・ジャパン2018」のスペシャルゲストとして出演。
Photos: Makoto Nakagawa(3rd) Makeup: yUKI for Loopblue (MØ) Hair: Koichi Nishimura(angle management) Styling: Mihoko Sakai Text: Masami Yokoyama Editor: Aya Aso