理論物理学の博士号をもち、有名進学予備校で数学の講師を務める一方、自ら主宰するソムリエスクールで教鞭を執るほか、飲食店経営やワインと日本酒の輸出入業も行うなど、ユニークかつパワフルに活動するワイン研究家、杉山明日香さん。本連載では、彼女が毎月視察に訪れるというシャンパーニュ地方の新潮流にフォーカス。

たんに「息子だから」という理由で受け継いでほしくはない

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階段の脇にもストックが所狭しと並べられている。

 アグラパール訪問の後半では、次代を担うであろうご子息のアンブロアーズさんもトークに参加。テイスティングをしながら、アグラパールのシャンパーニュについての話はより深まってゆきます。

明日香:(地下のカーヴにて)パスカルさんは息子さんに、ドメーヌを継ぐことなどについてどのようにお話をされているのですか?

パスカル:まず、自分自身の経験、つまり、私がかつて悩んだことや結果的には選ぶべくして選んだことなどについて、きちんと伝えました。彼には、単に「息子だから」という理由で受け継いでほしいとは思っていません。彼には彼の望む決断があるべきです。今の時点で悩みや迷いがあり、つらいと思っているのであれば、継ぐ必要はないと思います。

明日香:息子さんと、シャンパーニュ造りの関わりはどのような感じでしょうか。

パスカル:彼もここで生まれ育ったので、やはり私と似ていますね。なので、小さいときから瓶を洗ったり、手でラベルを貼ったりして育ちました。バカンスの時期ですら、セラーでの作業を手伝ってくれていたので、好きなのかもしれませんね。

明日香:アンブロアーズさんにもお聞きしましょう。お父さまはこうおっしゃっていますが、いかがですか?

アンブロアーズ:10代の頃は、「大学に行くならグランゼコール、もしくは医者になれ」と言われていて、3日だけ医学系の予備校へ行ったこともあります。

明日香:ずいぶん具体的な指示ですね。ただ、3日とは短いですね(笑)。

アンブロアーズ:そうですね(笑)。でも、僕はやっぱりシャンパーニュ造りがしたかったので、3日しかいられませんでした。最終的に父から、「本気で家業を継ぎたいのであれば、そのための決意表明を文書にして見せろ」と言われ、父に手紙を書きました。