創業は1780年。名門ジュエラーの中でとりわけ長い歴史を持つショーメは、フランスの歴史とともに輝き、フランスの歴史をつくり上げた唯一無二の存在。東京の三菱一号館美術館にて6月28日より開催されている「ショーメ 時空を超える宝飾芸術の世界」展の見どころに触れながら、18世紀後半から現代へと語り継がれる、偉大なる歴史絵巻に迫る。

権力を宝石に託した、ナポレオン帝政時代の栄華

「ショーメ 時空を超える宝飾芸術の世界」展を飾る、戴冠衣装に身を包んだナポレオン1世の肖像画。玉座、月桂冠、レジオン・ドヌール勲章頸飾、王笏、宝珠などあらゆる権力の象徴に囲まれているが、特筆すべきはショーメの創業者ニトが制作した「戴冠式の宝剣」。この剣の柄頭には、かつてルイ15世の王冠を飾っていた「レジャン」と呼ばれる140カラットの伝説的ダイヤモンドがはめ込まれ、皇帝の威光を象徴した。レジャンは現在ルーヴル美術館に鎮座する。
フランソワ・ジェラール《戴冠衣装の皇帝ナポレオン1世》 1806年
油彩/カンヴァス パレ・フェッシュ美術館、アジャクシオ
© Palais Fesch, musée des Beaux-Arts
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1804年の戴冠式に出席した教皇ピウス7世への謝意としてナポレオンより贈呈されたティアラは、ニトとその息子フランソワ、金銀細工職人アンリ・オーギュストが共同制作したもの。
アンリ・オーギュスト(金銀細工職人)、マリ=エティエンヌ・ニト、フランソワ=ルニョー・ニト
《皇帝ナポレオン1世より贈呈されたピウス7世のティアラ》 1804-1805年(後世に数回修正) 教皇庁聖具室、ローマ
© Chaumet / Régis Grman
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 ショーメの輝かしい歩みは1780年に始まる。王妃マリー・アントワネットの宝石商だったオベールの下で修業を終えたマリ=エティエンヌ・ニトが、パリのサントノーレ通りに自身の店を構えたのがこの年。ほどなくして、ナポレオンの馬車馬が店の前で偶然暴れ出し、ニトがナポレオンを助け出すことに。この運命的な出会いを契機に、ナポレオンはニトを皇帝の御用達ジュエラーに任命した。少佐から24歳で少将となり、その10年後に執政から皇帝にまで上り詰めたナポレオンにとって、宝飾品とは政治的権力を示すシンボルを意味した。成り上がりの身分から威厳ある王族へと変貌するために、威風堂々たる輝きが最良の武器となったのである。宮廷の儀式は豪華に執り行われ、戴冠式だけでなく結婚式や公式訪問、舞踏会などの行事のたびに、皇帝一族を引き立たせるべく、ニトはジュエリー制作の職務を与えられた。

 フランス王室の至宝であった140カラットのダイヤモンド「レジャン」を飾った戴冠式の宝剣や、ナポレオンと皇后ジョゼフィーヌの戴冠式のための王冠、後妻の皇后マリー=ルイーズとの婚礼用の装身具のセットなどもニトが手がけ、その名声はヨーロッパ全土に知れ渡っていった。初代皇帝ナポレオンとふたりの皇后のもとで、ショーメのジュエリーが輝き続けた時代──そんな華麗なドラマを語り継ぐ歴史的遺産が、三菱一号館美術館で開催のショーメ美術展にて公開される。ナポレオン帝政時代の栄華を鮮やかに彩り、宝飾史のみならず、フランス史における重要な意味を担ったショーメの偉大なヘリテージ。その深淵な世界に触れる感動を体感したい。

結婚記念品として、ナポレオンから皇后マリー=ルイーズに贈られた日中用パリュール。金のブドウの葉や房モチーフが、ギリシャ・ローマの神殿や遺跡が描かれたミクロモザイクにつながれて。
フランソワ=ルニョー・ニト《ミクロモザイクの施された、皇妃マリー=ルイーズの日中用パリュール》1810年 ルーヴル美術館、パリ
© RMN- Grand Palais (musée du Louvre) / Hervé Lewandowski
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