パワーと美しさの化身 皇帝が復活させたティアラ

フランソワ=ルニョー・ニトが1811年頃に制作した、《麦の穂のティアラ》。繁栄と豊穣のシンボルである麦の穂は、ジョゼフィーヌが愛した自然モチーフのひとつ。麦の穂が風にたなびく躍動感あふれる瞬間をダイヤモンドで描いた、メゾンの非凡なクリエイティビティを象徴するピース。
フランソワ=ルニョー・ニト《麦の穂のティアラ》 1810-1811年頃 ショーメ・コレクション、パリ
© Chaumet - Nils Herrmann
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 ジュエラーの芸術の頂点であり、ショーメの卓越性を物語るシグネチャーでもある、ティアラ。多くのアートと同様に、ティアラの起源は古代ギリシャ・ローマにある。ローマ帝国の時代には、ティアラと細いバンドーは額の低い位置に飾られ、絶対的な権力を示すものとして、皇帝と皇后の肖像から切り離せない装飾品であった。その伝統を復活させたのが、皇帝ナポレオン1世である。

 皇室御用達ジュエラーとしてニトが手がけたティアラは、最初の皇后ジョゼフィーヌと二番目の皇后マリー=ルイーズのためのものであり、続いて皇帝一族と宮廷の女性たちの頭上を飾り立てた。彼女たちがショーメのティアラをまとった神々しい姿は、ルーヴル美術館で誰もが目にする名画《ナポレオン一世の戴冠式と皇妃ジョゼフィーヌの戴冠》に描かれたことでも知られる。ティアラは頭上へと視線を引き付け、これを戴く人物に権威に満ちたオーラを与えた。

 古代の遺物にインスピレーションを得たとはいえ、第一帝政時代のティアラは、古代のゴールド製ティアラとは一線を画す華やかさを誇った。パールと貴石、とりわけまばゆいダイヤモンドがマウントされ、頭上を花環のように飾るダイヤモンドティアラの輝きの効果が、宮廷社会における優越性を決定づけた。ニト父子が手がけたデザインは厳密に古典的なものだった。シンメトリーなフォルムにはっきりとした輪郭を持ち、月桂樹の葉やオリーブなど、古代ギリシャ・ローマの芸術にモチーフを求めた。当時を象徴する作品のひとつに、戴冠式でジョゼフィーヌを女神のように輝かせた月桂樹のティアラがある。その伝説的作品は、過去200年以上にわたり何度も複製されてきたという。

フラワーモチーフの古典的パリュールをまとうジョゼフィーヌの肖像画。自然を愛で、ジュエリーに流行をもたらしたショーメ最初のミューズ。
ジャン=バティスト・ルニョー・ニト《ダイヤモンドとエメラルドのパリュールを着用したナポレオン1世の妻、皇妃ジョゼフィーヌの肖像》 1809年頃 油彩/カンヴァス パリ、ドン=ティエール財団(フランス学士院)
© Fondation Dosne-Thiers, Paris
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ショーメ 時空を超える宝飾芸術の世界 ─1780年パリに始まるエスプリ─
2018年6月28日(木)~9月17日(月・祝)
三菱一号館美術館

Editor:Etsuko Aiko