2世紀を超え、王侯貴族のために2000以上のティアラを制作してきたメゾン。古典主義、ロマン主義、ベル・エポック、アール・デコなどあらゆる様式を反映し、絶えずスタイルを刷新してきた。ティアラの多くは、歴史的ロイヤルウェディングのために手がけられたもの。世界の注目を集めた婚礼時のジュエリースタイルは、各時代の流行として広まっていった。

 パリのヴァンドーム広場12番地の本店階上にあるショーメ美術館には、ティアラのサロンがある。何百というティアラの模型が壁に飾られ、メゾンの威信を伝えている。ショーメ美術展では、約20点のティアラと約200点の模型がやってくる。名高きサロンを彷彿させる展示は話題を呼ぶだろう。

野生と洗練をつなぎ、想いを伝える崇高な煌めき

女性らしさやロマンティシズムを体現するモチーフとして、一世を風靡したリボン。スコットランド風タータンチェックのリボンを宝石でしなやかに描いたブローチは、ベル・エポック期におけるメゾンの創造性を伝える名作。1907年にアメリカ人顧客、ディンスモア嬢のためにジョゼフ・ショーメが制作。
ジョゼフ・ショーメ 《「タータンチェックのリボン」ブローチ》
(スコットランド風蝶結び) 1907年 個人蔵
© Droits réservés
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優雅に飛翔する6羽のツバメのオーナメント。西洋と東洋の分け隔てなく幸運のモチーフとして愛され、アール・ヌーヴォー期に多用されたツバメ。ドレスの前身頃を飾るオーナメント兼髪飾りとして、1890年にジョゼフ・ショーメが制作。
ジョゼフ・ショーメ 《6羽のツバメの連作》 1890年
ラリック美術館、ヴィンゲン=シュル=モデール、シャイ・バンドマン&ロナルド・オオイ寄託
© Rami Solomon & Kineret Levy Studio,
Israël, Musée Lalique, France,
dépôt Shai Bandmann et Ronald Ooi
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 2世紀以上の時を重ね、ジュエリーを通して自然を賛美し続けてきたショーメ。自然主義の伝統はニトからフォサン、モレル、ショーメへと、優れたアトリエ指導者たちに受け継がれていった。バラ、ヒナギク、カーネーションから麦の穂、月桂樹、ツタまで。メゾンのデザイナーたちは庭園の植物だけでなく、森の中や草原の草花からインスピレーションを受け、リアリズムを追求しながら、時に贅沢に、時にシンプルに描写。アール・ヌーヴォー様式で最盛期を迎えた自然界のモチーフは、植物にとどまらず、鳥や昆虫へと広がっていった。その精緻さとレパートリーの豊富さは、メゾンが誇る卓越したサヴォワールフェール(職人技)の結晶といえるだろう。

1810年ニトが制作。ナポレオン1世がマリー=ルイーズに結婚祝いとして贈った、秘密のメッセージを伝えるアクロスティック・ブレスレット。ふたりの名と生年月日、彼らの出会いと結婚の日付が、宝石のイニシャルと数字で描かれて。
マリ=エティエンヌ・ニト《皇妃マリー=ルイーズのアクロスティック・ブレスレット》 1810年 個人蔵
© Droits réservés
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遥かなる異国 日本文化へのオマージュ

まもなく開幕するショーメ美術展のために特別制作された、日本から着想を得たハイジュエリーネックレス。ルビーとルベライトの赤とオニキスの黒、ダイヤモンドの白い輝きというハイコントラストが幾何学的デザインを構築。自然モチーフを介して西洋と日本の文化を融合させた、本展のハイライトのひとつ。
ショーメ《日本に着想を得たネックレス》 2018年
ショーメ・パリ
© Chaumet
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「ショーメ 時空を超える宝飾芸術の世界」展の最終章では、日本とメゾンの知られざる結びつきに焦点が当てられている。主催する三菱一号館美術館の高橋明也館長に、その関係について尋ねた。

「19世紀末から20世紀初頭、日本文化の影響は西洋芸術の至るところに見られました。浮世絵、陶磁器や漆器、着物、伝統的な染めの道具である型紙など、あらゆる日本の意匠がインスピレーション源に。浮世絵が西洋の近代絵画へ及ぼした影響に比べれば装飾品への影響は分析の途上にありますが、メゾンが19世紀半ばの日本美術に着想を得ていたことは明らかです」

 その始まりは1793年に遡る。フランス革命期、ニトはマリー・アントワネットの日本漆器コレクションに感嘆していたという。時を経て雷神のブローチが1900年頃に制作され、1920年代には日本風のデザイン画が多く描かれた。ジャポニスムの影響は20世紀を通じて色濃く、今日まで継続。本展に際しては、日本に着想を得たパリュールが特別制作された。

「西洋と日本の宝飾品に対する感覚は、異なっているといえます。西洋人にとって装身具とは光を取り込むための装置。キラキラとした光をまとう価値観は窓やステンドグラス、絵画にも顕著に表れています。日本の絵画には光も影も描かれませんから、感覚の違いは歴然。ジュエリーとは西洋文化の中で育まれた工芸品。フランスの文化や美学の発展を体現するショーメの歴史的作品を通じて、西洋の文化的感覚に触れてください」

日本の神話の中の雷神がテーマ。ジョゼフ・ショーメが1900年頃に手がけた芸術的ブローチは、ジャポニスムが西洋の装飾芸術、特にアール・ヌーヴォーに表れた典型といえるピース。侍の衣装をまとった雷神が雷を呼ぶために太鼓を打ち、着物姿の女性と向かい合う空想の世界。
ジョゼフ・ショーメ 《雷神、日本風ブローチ》 1900年頃
ショーメ・コレクション、パリ
© Chaumet - Nils Herrmann
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和装の人物や野山の情景、自然モチーフを取り入れた、1925年頃の化粧ケースのデザイン画。
ショーメデザイン工房 《「日本風」のデザイン画 人物、風景、自然モティーフの化粧ケース》 1925年頃
ショーメ・コレクション、パリ
© Chaumet
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ショーメ 時空を超える宝飾芸術の世界 ─1780年パリに始まるエスプリ─
2018年6月28日(木)~9月17日(月・祝)
三菱一号館美術館

Editor: Etsuko Aiko

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