ファッションや宝飾などを扱うラグジュアリーブランドのCEOたちの生き方、価値観に触れるインタビュー連載。今回は、東京・丸の内の三菱一号館美術館で開催中の「ショーメ 時空を超える宝飾芸術の世界 ─ 1780年パリに始まるエスプリ ─ 」展のために来日した、ジャン=マルク・マンスヴェルトCEOに、ブランド魅力と自身のミッション、そして、日本で大型エキシビションを開く意義や今後のビジョンを聞いた。

ショーメが築いてきた美しき世界を、もっと伝えたい

 ジャン=マルク・マンスヴェルトさんがショーメのCEOに就任したのは2015年1月のこと。ロレアルで16年間マーケティング畑を歩んだ後、ルイ・ヴィトンに転じ、10年間に主力のレザーグッズ部門やアクセサリー部門、マーケティングインテリジェンス部門のディレクター、フレグランスやステーショナリーの発売などを担当。ルイ・ヴィトン出版の社長も務めた人物だ。

 ショーメでのミッションは、「“眠れる森の美女”の目を覚ますことです。就任して以来3年半、ショーメにまつわる露出を大きくすることと、ショーメがいかに美しいものを作り出しているのかを世界中のお客さまに知っていただくために、ブランドの世界観を深きにわたるまでご紹介していくことを強化してきました」とマンスヴェルトさん。

 商品面では3年前からハイジュエリーコレクションに力を入れ、ショーメがいかにクリエイティビティに優れているかを世に知らしめることに注力してきた。さらに、ブランドの長い歴史や、それにまつわるストーリー、扱っているモチーフやテーマなどを伝えるために、昨年は北京、今年は東京でエキシビションを開催。並行して、書籍や雑誌など、いろいろな刊行物も世に出している。

 とくに三菱一号館美術館で2018年9月17日まで開催中のエキシビション「ショーメ 時空を超える宝飾芸術の世界 ─ 1780年パリに始まるエスプリ ─ 」展は、ショーメの創業者が生み出した宝飾品で彩られたナポレオン1世の戴冠衣装の肖像画や、皇妃ジョゼフィーヌの肖像画で幕を開け、いきなり歴史の重みを感じさせられる設えだ。美術展のメインビジュアルにも採用された麦の穂のティアラや、過去から現在に至るまでの最高峰のティアラの集積、そして、マリー・アントワネットの日本の漆器コレクションや、ジャポニスムに影響を受けた作品、さらには、日本をイメージしたデジタルアートなども披露した。歴史的な作品と最新コレクションなどを並列するほか、宝飾職人、セッティング職人、研磨職人の実演や、LINEを通じたビデオガイドや壁紙など会場限定コンテンツのデジタル配信など、伝統と革新の融合も随所に仕込まれている。

会場には歴代のティアラが一堂に会する部屋も。輝きの競演に、思わず時間を忘れて見惚れてしまう。
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見せびらかすためでなく、個性を示すためのジュエリー

 数々のジュエリーブランドがひしめくなかで、ショーメのスタイルの独自性としてマンスヴェルトさんが挙げるのは、「2世紀半という長い時間をかけて作り上げてきた『永続性』がある点です。優雅であること。同時に、軽やかであること。そして、確固たる存在感があることを大事にしています。決してひけらかすものではありません。2世紀半にわたってショーメを選んでいただいてきたのは、自分自身のしっかりとした考えをお持ちの方々だと思います。見せびらかすためのジュエリーではなく、『自分自身の美意識・教養・文化』というものを、ジュエリーを通してお客さまが示されたいということを、ショーメはきちんと理解しているのです。ですから、お客さまとのコミュニケーションにおいても、優雅でありながら、ショーメのジュエリーが自分自身の個性を感じさせるに足るような、秘めたるストーリーやメッセージ性を有していることを伝え、ご理解いただけるようなものにしています」。

 さらに「その美意識は、単にモノそのものではなく、そこに宿る本質に美しさを感じさせるというところが、日本と通じ合うところだと思っています。また、どの作品をとっても、その一つひとつに象徴的な意味合いを持っているのが、ショーメの特徴なのです。自然をテーマにしたものも多くありますが、そこには、麦の穂もあれば、月桂樹、樫の木などもあります。人類の歴史と、自然の結びつきとの意味を深くくみ取り、それぞれ象徴的なかたちで表現しているのです」とマンスヴェルトさんは続ける。

1811年ごろ、フランソワ=ルニョー・ニトにより制作された「麦の穂のティアラ」。美術展のメインピースでもあるこの作品を間近で見られる機会は、まさに貴重。
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 確かに日本でも、古来、文様や型などに意味を込め、文化的に、あるいは、実用的にそれを承継してきた部分や、モノそのものだけでなく、その背景にあるものを“見立て”る、知識や想像力、そして遊び心に長けている面がある。日本という市場については、「それはそれは大事なマーケットです。日本のお客さまは、商品のクオリティやサービスなど総合的に要求基準が高いことで知られています。日本で評価されれば、世界中からもその価値が認められることになります。だからこそ、日本で美術展を開いたり、先陣を切って旗艦店をリニューアルしたり、コミュニケーションを強化しているのです」と説明する。

 6月1日にリニューアルオープンした東京・銀座本店のデコール(内装・意匠)には、繁栄と多産の象徴であり、ローマ神話で農耕をつかさどる女神ケレスを表す麦の穂や、愛を象徴するフクシアなどのレリーフ、ブランドのシンボルであるティアラのディスプレーなど、ブランドの世界観を発揮するモチーフがふんだんに盛り込まれている。「ショーメは日本に40年前から進出してきましたが、『ショーメとはこういうブランドなのだ』ということをあらためて発見し、感動していただける機会を提供できると思います。そして、常に新しいものを生み出しているメゾンだということをしっかりと伝えられたらと思っています」。

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ブライダルに特化した2階フロアなど、新たなコンセプトで生まれ変わった銀座本店。
住所:東京都中央区銀座3-5-7 松澤ビル
TEL:03-5524-2722
営業時間:11:30~19:30(日~木)、11:30~20:00(金、土)
不定休

多彩なタッチポイントに注力しながら、目指す未来

 また、今年はショーメの日本進出40周年であるだけでなく、日仏友好関係160周年という記念の年でもある。「今回のエキシビションは、駐日フランス大使館から後援を得た、160周年記念の公式イベントでもあります。大使にはオープニングに出席いただいたり、フランス大使館でパーティを開いたり、大使公邸でお客さまを自らお迎えいただいたりもしています。これは、ショーメの歴史がフランスの歴史、嗜好、クリエイションの歴史とも重なり合うものがあるためです」。

 今回のようなイベントや、店舗、デジタル施策や、マスからソーシャルまでを含めたメディア施策など、特性に応じた顧客とのタッチポイントの創造や情報の提供など、顧客のブランド体験価値を高めることにも力を注いできた。「ショーメはそれぞれの時代に合わせたかたちで、いろいろな事業や施策を展開してきました。今の時代には、デジタルの世界でもしっかりと存在感を示すことが必要です。雑誌やテレビなどの既存メディアに加え、SNS、Facebook、Instagram、Twitter、そして日本ではLINEの活用にも力を入れ、ショーメのいろいろなストーリーを多彩なタッチポイントで語るようにしてきました」。

 銀座4丁目の晴海通り沿いで開催中のポップアップストアも、新たなタッチポイント施策のひとつだ。ジャンルも年代も異なる3人のアーティストとコラボレーションするというもの。すでに第2弾まで終了しているが、8月3日~8月19日には、最後の一人であるアートディレクターでれもんらいふ代表の千原徹也氏とのイベントが控えている。

 また、現在、世界各国の主要都市に80以上のブティックと、正規販売代理店を通じた約450の販売拠点を展開しているが、「実はショーメの一つの矛盾でもあるのですが、一番歴史のあるジュエラーであるにもかかわらず、店舗展開という意味では世界に広がりきれておらず、大きな可能性を有しています」とグローバルでの成長ポテンシャルの高さに言及する。「ただし、ことを急いではいません。チョイス、セレクトをしながら、新しいマーケットなど、最適な場所に出店をしていきたいと思っています」。


終わりに代えて。Q&A 3本勝負

Q1:自身のリーダー像をどうとらえている?

マンスヴェルトCEO:私は、かなりうるさいタイプのリーダーです。要求が高くて、日本式に近いかもしれないですね。何よりも、ショーメで仕事をさせてもらえているのは、とても恵まれていることだと思っています。ただし、世の常として、どのポジションであってもずっととどまるものではありません。前任者たちが素晴らしいずば抜けたかたちで私たちにメゾンを残してくれているので、私も私のチームも全社一丸となって、その価値を継いでいくことが大切だと思っています。さらに、今度はそれを次の世代へしっかりとしたかたちで継承していくことが私のミッションでもあります。私たちが残すものに対して、確かな誇りを感じてもらえるように願っています。こういうところにも、日本に通じるものがありますよね。日本の伝統は、過去から現在、そして未来へと引き継がれることで、ますます強い存在になっていくように理解しています。ショーメでも、今までの財産を大切にしながら、将来を創り上げていくことが私の役目だと思っています。

Q2:ハードワークが続くと思いますが、趣味や気分転換方法は?

マンスヴェルトCEO:本を読むことですね。音楽もたくさん聴きます。クラシックもモダンミュージックも好きで、バッハ、ベートーヴェン、モーツァルトの後にティナ・ターナーを聴いたりもします。読書や音楽を聴くことで、人生が豊かなものになると思いませんか? また、いつもバタバタと駆け回るのではなく、ゆっくりと時を過ごすことも生活のなかではとても大事なことです。

Q3:座右の銘や、仕事や人生のモットーは?

マンスヴェルトCEO:特段にそういったものはありませんが、喜びを得て、日々を楽しく過ごすことですね。いろいろなものに細かく、うるさく、きっちり、カッチリと物事を遂行しながら、同時に、五感を研ぎ澄まして、いろいろなものを感じ取り、喜びを見出すことが大切だと思っています。こういった気持ちがあれば、クリエイトするジュエリーにも、楽しい気持ちがしっかりと表れてくるものです。今回の美術展でもいろいろなストーリーを語っていますが、訪れてくださった方には「なんて楽しい美術展なのでしょう!」と感じてもらえるはずです。



Jean-Marc Mansvelt
1987年、フランスの名門ビジネス・スクールであるHEC(Ècole des houtes études commerciales de Paris)卒業。ロレアル、ランコムなどを経て、2004年にルイ・ヴィトン入社。2014年、ロロ・ピアーナ入社。2015年より現職。

Photos: Tomoko Meguro(Portrait) Text: Kumi Matsushita(Fashion Journalist/kumicom)


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