「周りにはヴァイオリンをストイックに習っている天才肌の友だちもいたけれど、チェロはもっとおおらかでゆったりとしていました。それに何よりもチェロの音色がいろいろな音と混じることができるところがかっこいいと思ったんです」

 やがて、小澤征爾氏の指揮するサイトウ・キネン・オーケストラのコンサートで、小澤氏の古希のお祝いにサプライズで出演した名チェリスト、故ロストロポーヴィチの演奏に出合い、釘づけになった。「たまたま松本フェスティバルでそのコンサートを聴いたんですが、鳥肌が立つほどの刺激を受けて。記憶に強く刻まれる幸運な出合いでした」と語る。

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今年6月8日に開催された「シャネル・ピグマリオン・デイズ 室内楽シリーズ」の模様から。ライブ感あふれる演奏を体感できるのが、室内楽ならではの魅力。

「シャネル・ピグマリオン・デイズ」では、各演奏家たちのリサイタルや室内楽シリーズなど一連のコンサートは無料・抽選制で広く一般に開かれ、熱心なクラシック・ファンに支えられている。技術面だけでなく、コミュニケーションスキルを磨き、人間的な成長を後押しするため、演奏会では自身で構成した楽曲のプログラムについて解説する時間を設けている。

「とてもいいシステムだと思いました。まずプログラムを組む段階では、聴衆を納得させられるようなコンセプトを考えました。トークでは毎回内容に変化をつけて、自分自身の言葉で発信することを心がけました。どんなプログラムでもどっしりと構えていられる経験値や強さを身につけられたと思います。年6回のコンサートは、ふらりと訪れたお客さまも演奏家個人にグッと引き寄せて、成長を見てもらう大切な機会。いま所属しているコロムビアと結びつけてくれたのもビグマリオンのコンサートでした。トークを聞いてコンセプトが合いそうだと思ってくれたそうです。1年間やりきった後に世界が広がっていた、という感じです」

この体験はその後の国際コンクールでもおおいに生かされた。ヨーロッパの聴衆には、世界各地から若手アーティストが集まるコンクールでお気に入りの演奏者を見つけると熱心に追いかける人も多いそうだ。終演後、審査員ばかりか、鋭い耳を持つファンから直にコメントをもらうこともあったという。

「室内楽は特にコアなファンが多いですね。なかにはスコアを手に聴く方もいて、まったく気が抜けません(笑)。無名の新人でも本気で見守ってくれる空気があるんです。演奏者とオーディエンスとの関係性を考えさせられる、素晴らしい経験でした。そして、同時にそこは、ドイツやフランスのレコード会社が新人をリサーチに来る“ディープ”な本戦でもあります」