モロッコ美容を日本にいち早く紹介し、オイル美容ブームも牽引してきたローズ ド マラケシュ。「化粧品はまったくの素人だった」という、専務取締役であり開発者の板橋マサ江さんに、ブランドを立ち上げるに至った驚きの経緯や、「好き」を極めた仕事術、そしてJICAのSDGs(持続可能な開発目標)にも採択されたモロッコでの女性支援活動まで、NikkeiLUXE編集長 米川瑞穂がインタビュー。

[画像のクリックで拡大表示]

「モロッコとモナコを混同していた」私の、薔薇の谷との出合い

米川(以下Y):美容室(ジャン・クロード・ビギン)を長く経営してきた板橋さんが、化粧品ブランドを始めるきっかけというのは何だったのでしょうか?

板橋さん(以下I):14年前に、モロッコを訪れたことです。それまで美容室の経営には長く携わっていましたが、化粧品に関してはまったくの素人でした。そんな私の先生になってくれたのが、モロッコの一般の女性たち。彼女たちは、化粧品を自分でつくるんです。自分の肌の状態にあわせて、畑から材料を持ってきてつくる。肌が乾燥していたらこのハーブを、ちょっと毛穴が気になるなと思ったらたらこれを……というふうに。そんな彼女たちとの出会いで、私の人生は大きく変わりました。

Y:モロッコには、たまたま観光で訪れたんですよね?

I:はい。ジャン・クロード・ビギンの本店があるパリにはよく行っていて、本店の地下にあるエステルームでモロッコ式のマッサージを受けたんです。そしたらすごく気持ちがよくて。ちょうど20年前くらいからフランスではモロッコ美容が人気だったので、本場に行ってみようと思ったのがきっかけでした。

Y:そこで運命的な出合いが?

I:ええ。まずマラケシュで市場に行って、そこで売っていた薔薇がとても綺麗だったので、市場の人に「この薔薇はどこで咲いているの?」って聞いたんです。そしたら「“薔薇の谷”だけど、あそこは観光地ではなく何もないところだから、行くのはやめたほうがいい」って言われました。でも私、翌日には車を手配して薔薇の谷に向かっていたんです(笑)。

 片道6時間かけて崖みたいな道をずっと行ってみたら、本当に何もないところで……。ホテルも、1日のうち1時間しかお水が出ないところが1軒あるだけ。でもちょうど薔薇の谷は、ダマスクローズが一斉に咲き誇っている時季だったんです。

[画像のクリックで拡大表示]

Y:ブルガリアにも薔薇の谷がありますが、こちらの薔薇の谷は砂漠の中で、わりとワイルドな印象ですね。

I:そうなんです。大きい山と砂漠のはざまに突然、薔薇がたくさん自生しているという、不思議な空間。たまたま訪れたら、満開の薔薇が迎えてくれて、歩きまわるうち、風に乗った薔薇の香りが全身をふわーっと包むんです。ここの薔薇の香りは、強さとかゴージャスな感じではなくて、どちらかというとハーブのような、楚々としていて清々しい香り。自分の体がすべて香りで満たされる気がして、なんていい香りだろうと、その場から動けなくなりました。

 実はそのころ私は、美容室の仕事を息子に譲り、第一線を退いたときだったんです。でも自分で望んで決めたことなのに、なんだか体の中が空洞になったみたいな虚しさを感じていました。30数年も仕事をしてきたのに、もう何の仕事も、明日の予定もない。「これからどうやって生きていけばいいの?」と……そんなとき、知り合いもいない薔薇の谷にたどり着き、この薔薇とめぐり合ったんです。