Y:そういう女性たちの環境を変えようと、板橋さんは識字教育も始めたんですよね。

I:この地方の女性の識字率は50%です。だから2人に1人は文字が読めない。でも私がいきなり「女性の自立」とか声高に言うと、ものすごい反発がきて追い出されてしまいます。旦那さんとか男性側にとって、私はある意味、危険分子なわけですから。でも、モロッコの中でも南部のベルベル人は割とオープンマインドだったこともあり、少しずつ少しずつ、活動を広めてきています。

 私のパートナーをしてくれている工場の一室で識字教育を始めているんですが、「学校です」と言うと皆来ないし、来られないんです。だから「アルガンオイルの種を搾ってくれたらお給料を出すので来てください」と言います。それで仕事は午前中に終え、ご飯を食べてから「午後からはおしゃべりをしましょうか」みたいな感じで識字教育をし、お金も女性に直接手渡すようにしています。

Y:自然と文字を学べるというのは、後から考えたらその人にとって大きな変化だし、財産になりますよね。

I:ええ、大きな変化です。本を読んで感動したり、情報を得ることはすごく大切なこと。せっかく生まれてきたのに、ただ家事と労働だけで過ごしている女性たちは、目が死んでいるんです。時間が過ぎていくのをただ待っている、表情のない目。だから私は、女性として自分で考えたり感動する体験を、彼女たちと一緒にしたいと思ったんです。

Y:一夫多妻制で、 若い子に立場を追われるというのも過酷ですよね。

I:そう、旦那さんに「若い奥さんが来たから君はもういらない」と言われたら、子どもを連れてすぐに出て行かなくちゃいけない。だから、私が雇っている女性の25%はシングルマザーです。文字も読めず計算もできない彼女たちが、子どもを育てて生活していくのはやはり大変なことです。

Y:そしてこうした板橋さんのモロッコでの取り組みは今年、JICA(国際協力機構)のSDGs(Sustainable Development Goals)の一つに。

※2015年に国連で採択された、貧困や飢餓対策、エネルギーや気候変動問題、平和的社会の実現など、2030年までに達成を目指す諸目標のための活動。

I:そうです。私の中の一部は、もうモロッコ人になったみたいで(笑)、モロッコに行くたび、ふるさとに帰ってきたみたいな気持ちになるし、全然飽きない。最初はモロッコとモナコとモンゴルの違いもわからなかったし(笑)、アルガンオイルなんて本当に知らなかったのに、ブランドも育ち、女性支援にも自然に携われるようになったのはなんだか感慨深いです。

 私が今、していることはすべて、義務とかお金のために「しなくてはならない仕事」ではなく、59歳のときにすべてを取っ払い、好きなことを選んだ結果、見えてきたこと。自分が本当に好きなことだったら、本当に人間って満たされるし、何歳からでも頑張れるんだと思います。

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Photos:Akinobu Saito Tapescript:Kana Otsuka Interview & Edit:Mizuho Yonekawa